S「いやあ、D先生、やっちゃいました」
D「どうした?病院のカネでもごまかしたか?」
S「そんなことしませんし、ぼくにはそんな権限ありません」
D「言ってみただけだ。君みたいな真面目が服を着たような秀才くんがそんな度胸あるわけないもんな」
S「だからどうして罵倒されるんですか?」
D「で、なにをやらかした?」
S「いやあ、先月の研修医のフィードバックでけっこう厳しいこと書かれちゃったんですよ。「S先生は指導に一貫性がない」って。あまり厳しいこと言われ慣れてないので落ち込みました」
D「だめだなあ。他人からちょっと厳しいこと言われたくらいですぐ凹むんだから、ゆとり世代は」
S「そりゃ、D先生はむちゃくちゃ叩かれなれてますからねえ」
D「そんなことない。俺は「やられたらやり返す、倍返し」派なのはみんな知ってるから、俺を叩いてくるやつはそうそういない」
S「確かに」
D「しかし、S先生。「一貫性がない」は指導医に対する失格宣言だ。最悪の指導医とは、一貫性がない指導医のことだからだ。これはひどいことを言われたねえ」
S「ええ?そうなんですか?暴言吐きまくりとか、態度が悪いとか、セクハラしまくりとか、そういう指導医が「最悪」なんじゃないんですか?」
D「こっち見て言うな!もちろん、そういう指導医も問題だが「最悪」ではない。最悪な指導医とは、あるときは「なんでこんなことで俺を呼ぶんだ!」と怒り、別なときには「なんでこんなになるまで俺を呼ばなかったんだ!」と怒る指導医だ。研修医はどうしていいのかわからなくなり、ダブルバインド状態に陥る。最悪だろ」
S「うう、確かに。でも、ぼくの中では一貫しているつもりだったんですが」
D「だからダメなんだよ。なぜそこに気づかない?」
S「え?」
第21回「言動は一貫させよう、ただし」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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