注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
入院患者の口腔ケアが肺炎の発生頻度をどのくらい抑制するか
院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)は入院後48時間以降に発症した肺炎と定義され、ventilator-associated pneumonia(VAP)は気管挿管後48-72時間で発症したHAPと定義される。HAP自体による死亡率は30-50%程度であり、その発症予防は重要である1)。また、現在までに口腔内環境が全身の様々な疾患と関連していることが報告されており、他動的な口腔ケアが気管挿管患者や意識消失患者に対して行われている。そこで、両者の関係に注目して、入院患者の口腔ケアが肺炎の発生頻度をどのくらい抑制するかについて調べた。
2007年にChanらは、気管挿管患者のVAPおよび死亡率に対する口腔内の抗菌薬および消毒薬の除菌の効果を推定するためにsystematic reviewとmeta-analysisを行った2)。本研究では11試験、3242人を対象とした。4試験1098人の患者において、口腔への抗菌薬の投与はVAPの頻度を有意に減少させなかった(相対リスク0.69、95%CI 0.41-1.18)。しかし、7試験2144人の患者において、口腔への消毒薬の投与はVAPの頻度を有意に減少させた(0.56、0.39-0.81)。また11試験の結果、VAPの頻度は抗菌薬と消毒薬の両方での除菌を受けた患者で低かった(0.61、0.45-0.82)。しかし、死亡率は抗菌薬による予防(0.94、0.73-1.21)でも消毒薬による予防(0.96、0.69-1.33)でも変化しなかった。また、機械換気やICUへの滞在期間にも影響を与えなかった。
また、2009年にはPanchabhaiらがICU患者において口腔環境を保つことでHAPの頻度が減ることを報告している。この研究はICU患者512人に対して1日2回の口腔咽頭洗浄を0.2%のchlorhexidineで行う群(250人)と0.01%の過マンガン酸カリウムで行う群(262人)とにランダムに割り当て、ICUでの院内肺炎に対する頻度とICU滞在期間および院内死亡率に対する影響を調べた。その結果、両群でHAPの発症頻度は両群で有意差がなかった(chlorhexidine群16/224人、対照群19/247人(0.93、0.49-1.76))。しかし、他のreviewerに本研究で対象にした患者と、この研究前後の6ヶ月間にICUに入院した患者のHAPの頻度を盲検で比較してもらった。研究前後の6ヶ月でICUに入院した563人の患者のうち、ICUの滞在期間が48時間以下だった76人および入院前から肺炎を発症していた34人を除外した452人を解析した。その結果、研究前後の6ヶ月間に入院した患者でHAPを発症したのが98人だったのに対し、研究中に入院した患者では35人とその頻度は有意に低下していた。
上記の結果は気管挿管患者やICU患者に限定されているものの、入院患者の消毒薬による口腔ケアが院内肺炎を抑制することが示唆された。一方で、抗菌薬による口腔ケアの有用性は示されなかった。他の予防策と比較ができていないものの、本結果は院内肺炎の抑制に口腔ケアが有用であることが示唆された。
寸評:命題もしっかりしているし、論文の分析も悪くないです。しっかりしたレポートだと思います。
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