D「S先生、君はさっきMRと呼び捨てしたな」
S「はっ!そう言えば、D先生は「MRさん」とさん付けしてましたね」
D「そうだ。君は無料で薬の情報提供をしてもらい、あまつさえ高級料亭のお弁当までただで提供してもらいながら、「MR」と担当者を呼び捨てにしているだろう。実に無礼だとは思わないかい」
S「いや、それは、、、みんなそう言っているし、、、」
D「みんながそう言っているなら、そうするのか?じゃあ、みんなが赤信号で横断歩道を渡ってたら、君も渡るのか?君の主体性や判断力はどこに行ったんだ?」
S「そんな、昭和の世代じゃないと理解できない例え話をしなくても、、、、」
D「君たちは賢しらに言うんだよ。医者と製薬業界はパートナーで、いっしょに仲良くやっていかないと医療はよくならないと。確かに、薬は医療において必須だし、製薬メーカーなしの医療はなりたたない。だったら、なんで向こうは「S先生」と先生付で、こっちは「MR」と呼び捨てなんだ?向こうは敬語で、こっちはタメ口なんだ?なにがパートナーだ、単なる上下関係、接待するものとされるものの関係にすぎないじゃないか!」
S「まあ、言われてみれば、、、、」
D「そういうのを学生も研修医もよく見ているんだよ。最初は彼らもMRさんに敬語を使っているけど、3年目くらいになると自分より年上のMRさんを捕まえてタメ口をきくようになる。みんな、君たちの不遜な態度を観察して真似してるんだよ。みっともないったらありゃしないじゃないか」
S「うう、おっしゃるとおりです。すみませんでしたあ」
D「だから、俺は学生や研修医に製薬業界の説明会には参加を禁止している。俺自身、そういうものには参加しない。もちろん、スペシフィックな薬の情報は必要なことがあるから、人間関係そのものを遮断しているわけではない。ある薬と特定の副作用情報なんかを問い合わせることはある。こないだもそれが縁で、これまで知られていなかった薬の副作用を症例報告したくらいだ。でも、そのときもちゃんと「さん付け」で敬語だよ。パートナーと言うからには、そうすべきじゃないだろうか?」
S「はい、心から反省しました。もうMRさんには敬語を使います」
D「繰り返すが、医者と製薬業界はパートナーだ。ときに、サッカー選手とレフリーも一種のパートナーだよな。選手がレフリーに敬意を払わないと試合は壊れる。レフリーが選手に敬意を払わないと、これも試合は壊れる。両者がお互いの専門性を活かし、協力しあってはじめて試合は面白くなる」
S「はい」
D「しかしだ、選手がレフリーを食事に誘い、飲食代を肩代わりしたり、ましてや金品を渡したらどうなる?それを我々は「八百長」というんじゃないのか?」
S「そうですね」
D「パートナーであるということと、接待を受けてもOKかどうかは、別問題だ。だから利益相反は問題になるんだ。瓜田に履を納れずという。襟を正し、公明正大な態度を示すことこそ、学生や研修医への教育になるんだ」
S「D先生、おっしゃるとおりです!感動しました!」
A「D先生、御用があるということで参りました」
D「おお、チーフレジデントのA先生じゃないか。いやいやいや、今回新しい研修医向けの教科書を書いたもんだからね。君たち研修医諸君に特別に無料で提供してあげよう」
A「うわ、読みたかったんです。医学書高いし。先生、ありがとうございます」
D「いやいや、どってことないよ。ところで、もうすぐベスト指導医賞の投票があるよね。チーフの君の意向というのもやはり重要だとぼくは思っているんだけどねえ。うん、魚心あれば水心なんだよおおお」
S「D先生、さっきの感動、消え去りました」
第8回「製薬メーカーとの「おつきあい」は反教育的」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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