注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
肝膿瘍の液状化のメカニズムは何か
一般的に、膿瘍は化膿菌の組織内への侵入による化膿性炎症組織の限局性集合体で、内部は壊死した白血球や組織の集まりで形成される。化膿性肝膿瘍におけるメカニズムについての文献を”liver abscess liquidization”,”abscess liquefaction”,”abscess mature”,”liquefaction necrosis”等のキーワードでPubMed・UpToDate・Google Scholarで検索したが無かった。結核の肉芽腫の液状化に関する文献は見つかった。
結核での乾酪性肉芽腫の液状化は、細菌由来のツベルクリン様産物に対する遅延型過敏症反応(DTH)である。液状化には肉芽腫周囲の宿主細胞由来の加水分解酵素(タンパク分解酵素、DNA分解酵素、RNA分解酵素、リパーゼ)が関与している。サイトカインにより乾酪性肉芽腫の周囲に集まったマクロファージが活性化すると、マクロファージ内の加水分解酵素が増加する。タンパクや他の巨大分子などが加水分解されるとその産物により乾酪性肉芽腫の浸透圧が上昇し、水分を吸収して流動性が増加し液状化する。液状化は一度始まると自己触媒で、マクロファージによる液状化乾酪性肉芽腫組織の貪食が加水分解酵素を増やし、酵素が増えれば増えるほど固形乾酪性肉芽種組織は効率的に加水分解される。
参考文献:
Vinay Kumar etc,2015,Robbins and Cortan Pathologic Basis of Disease Proffesional Edition 9th Edition,Saunders,pp91
Pere-Joan Cardona,2011,A Spotlight on Liquefaction:Evidence from Clinical Settings and Experimental Models in Tuberculosis,Clinical and Developmental Immunology,Volume 2011.Article ID 868246,9pages
M.Dannenberg Jr.,2009,Liquefaction and cavity formation in pulmonary TB:A simple method in rabbit skin to test inhibitors,Tuberculosis,Vol 89,243-247
寸評:時間切れで、これは失敗作です。しかし、極めて優れた失敗作です。このレポート自体は30点くらいのできですが、時間がたっぷりあって完成していたら100点満点になっていたかもしれません。この「のり」で今後も精進してください。
まず、タイトルが秀逸です。膿瘍の液状化はありふれた現象ですが、「なぜ」と思う人は少数派です。次に、検索方法を明示しています。これもいい。サーチタームはも少し工夫できるかもしれませんが、そういうスキルは経験ですぐに身につきます。さらに、結核のアナロジーを用いているのもよい発想です。「他の細菌でも同様のことが起きている可能性」という議論でまとめたら、完成していたでしょう。
他のとこでも書きましたが、学生の失敗は後退でも挫折でもありません。ただの、前進です。かなりビヨンと前に飛んだと思いますよ。
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