注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Nutritionally variant streptococciによる感染性心内膜炎の抗菌薬は何が良いか
Nutritionally variant streptococci (以下, NVS)は口腔などの常在菌であり, 特殊な栄養要求性を示し, 他菌種の周囲に衛星現象として発育する菌である. NVSには Abiotrophia defectiva, Granulicatella adiacens, Granulicatella elegans, Granulicatella balaenopteraeの4菌種が含まれる. NVSによる感染性心内膜炎(infective endocarditis: 以下, IE)は, 1961 年にFrenkel らによって初めて報告された1). NVSが起炎菌のIEは, IE全体の8~17%を占める2). NVSによるIEの抗菌薬治療は, AHAのガイドラインでは腸球菌によるIEに準じ, ABPCまたはPCG 4〜6週間と, GM 4〜6週間の併用が推奨されている3). 一方, ESCのガイドラインではPCGまたはCTRX またはVCM 6週間とGM 2週間以上を併用することが推奨されている4). 2つのガイドラインでは抗菌薬の選択と治療期間が異なるため, 実際にNVSによるIEに対して, どのように抗菌薬を使用すればよいか疑問に思い調べた.
Albertiら5)は, 132例のNVSの分離株(G.adiacens 90例, A.defectiva 37例, G.elegans 5例)について抗菌薬の感受性を調べている. G.adiacensとA.defectivaのペニシリン感受性率は共に低かった(38.9% vs. 10.8%). 一方, G.adiacens のCTRXに対する感受性率は43.3% と低く, A.defectivaは100%であった. 全ての分離株はVCMに高感受性で, アミノグリコシド系抗菌薬に高濃度耐性はなかった.
Dahlら6)は, Enterococcus faecalisによるIEに対するゲンタマイシン投与期間に関するパイロット・スタディを報告している. E.faecalisによるIE患者84例を, ゲンタマイシン4〜6週間投与した群41例と, 2週間投与した群43例に分け, 1年無再発率を1次アウトカム, 腎機能を2次アウトカムとした. まず, 両群における入院時のeGFRに有意差はなかった(中央値66 vs. 75 mL/min; p=0.22). ゲンタマイシン投与期間は有意差があった(中央値28 vs. 14 days; p<0.001). 結果, 1年無再発生存率に有意差はなかった(66 vs. 69 %; p=0.75). 1年後のeGFR低下率は有意差があった(中央値10 vs. 1 mL/min; p=0.009).
Albertiらの研究では, NVSの菌種の中でG.adiacens やA.defectiva は抗菌薬に対する感受性が多様であることが示唆された. また, Dahlらの研究では, ゲンタマイシンの投与期間は1年後の再発率に影響しないが, 4~6週間投与は2週間投与に比べ腎機能が顕著に低下することが明らかとなった.
以上から, NVSによるIEに対する抗菌薬治療は, 培養された菌種の感受性を調べ, 感受性の高い抗菌薬を選択する必要が有ると言える. 特に, A.defectivaはペニシリン感受性株が10.8%と低いため, ペニシリン系以外の抗菌薬を選択する機会が高いと考えられる. ゲンタマイシンの投与期間は, 腎機能低下を最小限に抑えるため, 2週間投与で十分と考えた. NVSによるIEの標準治療としては, NVSの感受性試験の結果を踏まえ, ESCガイドラインに沿った抗菌薬を選択するべきであると結論付けた.
参考文献
- 江成 博, 日本臨床微生物学会 2015, 栄養要求性レンサ球菌の検出と同定に関する問題点.
- Beighton D et al, A scheme for the identification of viridans streptococci, J Med Microbiol. 1991 Dec; 35(6):367-72.
- Larry M. Baddour et al, Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications , Circulation 2015; 132: 1435-86.
- Europian Society Of Cardiology, Infective Endocarditis, ESC Clinical Practice Guidelines 2015
- Alberti MO et al, Antimicrobial Susceptibilities of Abiotrophia defectiva, Granulicatella adiacens, and Granulicatella elegans, Antimicrob Agents Chemother. 2015 Dec 14; 60(3): 1411-20
- Dahl A et al, Enterococcus faecalis infective endocarditis: a pilot study of the relationship between duration of gentamicin treatment and outcome, 2013 Apr 30; 127(17): 1810-7.
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