教科書は英語ですか?6
I「W先生がお持ちの「病気がみえる」。細菌性髄膜炎のところを読んでみましょう」
M「発熱、頭痛、嘔吐、髄膜刺激(項部硬直、Kernig徴候など)、といった共通の症状がみられ、、、って書いてあります」
W「新生児・乳幼児における髄膜刺激症状は必ずしも明瞭ではない場合がある、とも書いてありますね」
I「はい、では高齢者の髄膜炎についてはどうでしょう」
M、W「そういう点については書いてないですね」
I「さ、ここでHarrison's Principles of Internal Medicine 19th edを読んでみましょう」
W「ここにはありませんよ」
I「今はKindleに入ってるんですって。私のMBA(Macbook air)でスタンバってます」
M「日本の医学書はKindle入ってないのは、不便ですね」
W「M(自主規制)、使いにくいですもんね」
I「さて、Harrisonでは徴候についてはこう書いてあります。
Although commonly tested on physical examinations, the sensitivity and specificity of Kernig's and Brudzinski's signs are uncertain. Both may be absent or reduced in very young or elderly patients, immunocompromised individuals, or patients with a severely depressed mental status.
sensitivity(感度)とspecificity(特異度)についてはまた別の機会に説明しましょう。要は、髄膜刺激症状(ここではKernigやBrudzinskiサイン)の欠如は、髄膜炎を否定する根拠にはならず、特に高齢者などでは見られない(absent)か、はっきりしない(reduced)ことも多いってことです」
W「まあ、ハリソンはでかい教科書だから、詳しく書いてあるのは当然ですよ」
I「そういう話ではありません。W先生は項部硬直の不在を根拠に髄膜炎を否定しようとしました。間違った根拠で病気を否定すると、その病気の見逃しに繋がるってことです。「病気がみえる」には髄膜炎の各所見について、感度、特異度といった観点から説明していません。あの教科書だけで勉強した医者は、容易に髄膜炎を見逃すリスクがあるってことです。そのリスクは構造的なリスクなのです」
W「うーん」
I「あなたはこないだ、自分は普通の医者でいい、っておっしゃってましたよね。私は個人的には、そういう目標の医者がいてもかまわないと思います。しかし、構造的に誤診をする医者を「普通」のレベルといってもよいでしょうか。そういう可能性を考えてみてください。怖くなりません?」
W「確かに、、、怖いです」
I「怖さを知る、というのが臨床医学ではとても大切なんです。怖いもの知らずの医者くらい恐ろしい物はありません。「病気がみえる」だけで勉強していると、構造的な間違いの元なんです。これについては、次回も説明しましょう」
英語は難しくありません。少しずつ学んでいきましょう。
今日のポイント
・徴候の感度、特異度について記載がないと、構造的な誤診につながる。
今日学んだ単語:sensitivity, specificity, absent, reduced
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