注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『ニューモシスチス肺炎に対してST合剤とアトバコンはどちらがより有効か?』
ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia : PCP)は、真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiを病原微生物とし、主に細胞性免疫不全患者に発症する日和見感染症である。PCPの治療としては、日本や米国のガイドラインではST合剤が第一選択とされ、アトバコンが第二選択とされている1),2)。しかしながらST合剤は副作用が高率に出現し、約30〜50 %の例において治療終了まで継続できなかったとの報告もあり、決して使いやすい薬剤とは言えない3),4)。これに対してアトバコンは、ST合剤と比較して副作用の発現率は低い5)。そこで今回、ニューモシスチス肺炎の予防及び治療効果の観点からは、ST合剤とアトバコンのどちらがより有効かについて検討した。
まず予防について、自己造血幹細胞移植後の患者を対象としてST合剤とアトバコンの予防効果及び安全性を比較したランダム化比較試験によると、ST合剤群(19例)及びアトバコン群(20例)の全例でPCPは発症せず、両者に有効性の差は認められなかった6)。また、腎移植後の患者を対象としてST合剤とアトバコンの予防効果及び安全性を比較したレトロスペクティブ研究においても、ST合剤群(160例)及びアトバコン群(25例)の全例でPCPは発症せず、やはり両者に有効性の差は認められなかった7)。
次に治療について、PCP を発症したHIV感染者を対象としてST合剤とアトバコンの効果を比較した二重盲検ランダム化比較試験によると、死亡例はST合剤では162例中1例(0.6%)、アトバコンでは160例中11例(7%)と、ST合剤群の方が有意に死亡率が低かった(P=0.003)。また、不奏効例はST合剤では162例中10例(7%)、アトバコンでは160例中28例(20%)と、ST合剤群の方が不奏効率も有意に低かった(P=0.002)8)。
以上より、PCP発症の予防効果は、ST合剤とアトバコンに有効性の差は認められなかった。一方、PCPの治療については、ST合剤の方がアトバコンよりも有効であると言える。ガイドライン上もST合剤が第一選択とされ、ST合剤が副作用により使えない場合にアトバコンを選択することとされている。しかしながら治療効果に関してはST合剤の方が有効性に優るため、ST合剤の副作用が軽微であってコントロール可能な場合には、副作用に対して対症療法を試みながらST合剤を継続することも考慮すべきかもしれない。
(参考文献)
1)「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」深在性真菌症のガイドライン作成委員会
2) “Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents” CDC, the National Institutes of Health, and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of America
3) Clinical and radiological features of acute-onset diffuse interstitial lung diseases in patients with rheumatoid arthritis receiving treatment with biological agents: Importance of Pneumocystis pneumonia in Japan revealed by a multicenter study. Intern Med. 2011;50(4):305-13
4) Comparison of three regimens for treatment of mild to moderate Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. A double-blind, randomized, trial of oral trimethoprim-sulfamethoxazole, dapsone-trimethoprim, and clindamycin-primaquine. ACTG 108 Study Group. Ann Intern Med. 1996 May 1;124(9):792-802
5) Atovaquone: a review. Ann Pharmacother. 1993 Dec;27(12):1488-94
6) A prospective randomized trial comparing the toxicity and safety of atovaquone with trimethoprim/sulfamethoxazole as Pneumocystis carinii pneumonia prophylaxis following autologous peripheral blood stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 1999 Oct;24(8):897-902
7) Atovaquone versus trimethoprim-sulfamethoxazole as Pneumocystis jirovecii pneumonia prophylaxis following renal transplantation. Clin Transplant. 2012 May-Jun;26(3):E184-90
8) Comparison of atovaquone (566C80) with trimethoprim-sulfamethoxazole to treat Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. N Engl J Med. 1993 May 27;328(21):1521-1527
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