注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腸管気腫症(PCI)に高圧酸素療法(HBO)は有効か?
腸管気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:以下,PCI)は腸管壁内に多数の含気性小囊胞が集簇して発生する病態である1)。機序としては、a)腸粘膜障害部からの壁内へ気体が侵入することによる発症、b) 肺疾患による肺胞障害、気管障害で気体が縦隔や後腹膜に侵入し、腸間膜を経由して腸管壁に到達することによる発症c)気体を産生する菌の感染による腸管壁内での気体の発生による発症、の三型がある2)。酸素吸入では組織酸素分圧の上昇に伴って閉鎖腔の気体の一部は酸素に置換され、腸管壁より吸収されることにより、気腫が縮小すると考えられる。この理論からすれば、通常の酸素吸入に比べて、分圧差がより大きくなる高圧酸素療法(hyperbaric oxygen therapy:以下,HBO)がより有効な治療なのではないかと考えた。
Togawaらの研究2) で、治療期間の記載のあった酸素吸入の20 例とHBOの7例の平均治療期間はそれぞれ14.6 日(1-35日)と4.7日(1-8日)であったことが示されており、この結果はHBOが通常の酸素吸入より治療効果が高いことを示唆しているといえる。
しかし、PCIの機序によっては、HBOを慎重に考慮する必要がある。a)の場合、腸管虚血の有無が重要となる。腸管虚血が存在する場合、腸壁の壊死によって粘膜が崩壊し、気体が腸管壁に貯留している可能性があるため、腸の切除が必要となる1,2)。 腸管虚血を疑う身体所見として、腹膜刺激症状が挙げられる。腹膜刺激症状は腸管虚血を伴うPCIで、9/10 例で陽性であったとの報告がある1)。また、b)の場合、高圧下で吸収された気体が減圧時に体積が増大することで、病態をより悪化させる可能性があり、注意が必要である2)。またc)のように細菌感染が疑われる場合には必ず抗菌薬投与も同時に行うべきである2)。
結論としては、PCIは病因によって適切な治療が求められ、HBOの使用もPCIの治療の考慮に入りうるが、腸管虚血を伴う場合、また肺、気管支に合併症のある場合には、慎重に検討する必要があると考えた。
参考文献
1)A Diagnostic and Treatment Flow Chart for Hepatic Portal Venous Gas or Pneumatosis Cystoides Intestinalis
Satoshi Sugimoto, Chong Hyonsu, Mamoru Shimada, Kyo-Won Lee, Shoichi Takayama, Hiroki Takehara, Hiroshi Oka1,Department of General surgery, Moriguchi Keijinkai Hospital Department of Surgery, Tsuchiya General Hospital日本腹部救急医学会雑誌 Vol. 34(6)2014
2)Togawa S, Yamami N, Nakayama H, et al: Evaluation of HBO2 therapy in pneumatosis cystoides intestinalis. Undersea Hyperb Med. 2004; 31: 387-93.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。