注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核性髄膜炎に対してステロイドは有効かどうか
結核性髄膜炎は2年以内の死亡率が適切な抗結核薬を用いても20〜32%1.2.3)、また失明、難聴、水頭症4) などの後遺症が残る患者は5〜40%1.2.3) と多く、予後の悪い疾患である。臨床では抗結核薬と併用してステロイドが使われることがある。果たしてステロイドは死亡率の改善、後遺症発生予防に効果があるのか検討する。
- Thwaitesら5) は、14歳以上の545人を対象としてDexamethasoneとプラセボを用い二重盲検ランダム化比較試験を行った。すべての患者において3ヶ月間のINH, RFP, PZA, SMを投与し、その後6ヶ月間はINH, RFP, PZAを投与した。Dexamethasoneは、GCS 15点の患者は1週目0.3mg /kg・day静注,2週目0.2mg /kg・day静注,3〜6週目0.1mg/ kg・day経口で投与した。GCS 14点以下の患者は1週目0.4mg/ kg・day静注,2週目0.3mg/ kg・day静注,3週目0.2mg/ kg・day静注,4週目0.1mg/ kg・day静注し、5週目以降は4mg/ dayから開始し、1週ごとに1mg減らし4週間経口で投与した。治療開始の9ヶ月後を比較すると、死亡率においてDexamethasone投与群(274人)は31.8%であったのに対し、プラセボ群(271人)は41.3%であった(RR 0.69, 95%CI 0.52-0.92, p=0.01)。しかし死亡または深刻な後遺症を残した患者を合わせると44.2% vs 49.4%であり、有意差はなかった(OR 0.81, 95%CI 0.58-1.13, p=0.22)。さらに死亡率において、GCS 15点の患者では16.7% vs 30.2%(RR 0.47, 95%CI 0.25-0.90, p=0.02)と有意差を認めたが、GCS 11~14点の患者では31.1% vs 40.0%(RR 0.71, 95%CI 0.46-1.10, p=0.11)、GCS 3~10点の患者では54.8% vs 60.0%(RR 0.81, 95%CI 0.51-1.29, p=0.38)であった。しかしステロイドの投与によって有害事象の発生増加は見られなかった。よって適切な抗菌薬とともにステロイドを投与すると死亡率は下がったが、GCS 15点未満の患者では有意な差はないと考えられる。
Prasad K6) らによる9つのランダム化比較試験(1337人)のsystematic reviewでは、ステロイド投与群の致死率は31%であったのに対し、プラセボ群は41%であった。ステロイドの投与によって死亡の相対リスクは25%減少した(RR 0.75, 95% CI 0.65 to 0.87)。しかし2年以内の神経学的後遺症はそれぞれ7% vs 8%(RR 0.92, 95%CI 0.71-1.20)と有意な減少はみられなかった。
以上の研究結果から、結核性髄膜炎に対してステロイドを投与すると、死亡率は下がると考えられる。しかしGCS scoreが15未満の患者では有意差はなく、また後遺症の発生予防に有意な効果はないと考えられる。よって結核性髄膜炎に対してステロイドは致死率を下げるために投与すべきである。またGCS15点未満の患者においても、有意差はないが致死率は下げ、有害事象の発生確率も上昇しないことから投与しても良いと考えた。
- Ramchandrn P, Duraipandian M, Nagarajan M, Prabhakar R, Ramakrishnan CV, Tripathy SP. Three chemotherapy studies of tuberculous meningitis in children. Tubercle 1986 ;67(1):17-29
- Alarcon F, Escalante L, Perez Y, Banda H, Chacon G, Duenas G. Tuberculous meningitis. Short course of chemotherapy. Archives of neurology 1990 ;47(12):1313-7.
- Jacobs RF, Sunakorn P, Chotpitayasunonah T, Pope S, Kelleher K. Intensive short course of chemotherapy for tuberculous meningitis. Pediatric Infectious Disease Journal 1992 ;11(3):194-8
- レジデントのための感染症マニュアル 第3版 青木眞著
- Guy E. Thwaites, M.R.C.P., Nguyen Duc Bang, M.D.,et al. Dexamethasone for the treatment of tuberculous meningitis in adolescents and adults. N Engl J Med 2004, 351:1741-1751.
- Prasad K, Singh MB, Ryan H. Corticosteroids for managing tuberculous meningitis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2016, Issue 4.
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