注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染性心内膜炎予防の観点からは生体弁と機械弁はどちらが推奨されるか?
感染性心内膜炎は弁膜や心内膜、大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し、菌血症、血管塞栓、心障害など多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患であり、心内膜炎症例の10~30%に人工弁との関連が認められた。[1]人工弁には生体弁と機械弁があり、感染性心内膜炎予防の観点からはどちらがよいか考察してみた。
Arvay Aらは1981年1月1日から1985年12月31日までの1~6年間(平均3年)、弁置換を行った912人中99.5%について追跡した。その結果PVE(人工弁置換後感染性心内膜炎)を発症したのは、生体弁置換をした329人中19人(5.8%)、機械弁置換をした583人中8人(1.4%)となった(chi-square=14.48,P<0.005)。[2]
Massachusetts General Hospitalで1975年から1982年までに初めて弁置換を行った2642人について分析したところ、追跡可能であったのは2608人(98.7%)で、平均追跡期間は39.8ヶ月。PVEを発症したのは116人(4.4%)で、実際には12ヶ月の時点で3.1%、60ヶ月の時点で5.7%であった。手術後3ヶ月以内では機械弁の患者の方が生体弁の患者よりもPVEのリスクが高かったが(P=0.2)、手術後12ヶ月以降では生体弁の方がリスクが高かった(P=0.004)。しかし、5年間の追跡による累積危険度にははっきりとした差はなかった。[3]
術後さらに長い期間追跡したものとしてBrennan JMらの研究がある。生体弁置換患者24410人、機械弁置換患者14789人の平均年齢73歳の患者を平均12.6年追跡したところ、12年間の心内膜炎による再入院は生体弁置換患者で2.2%、機械弁置換患者で1.4%であった(unadjusted HR,1.69;95%CI,1.43-2.00)。リスク調整後、75~80歳の最も高齢の患者群や腎不全をもつ患者群をのぞいたそのほかの群では生体弁置換患者の方が心内膜炎のリスクが高かった。[4]
以上より、手術後3ヶ月以内の早期PVEのリスクは生体弁の方が低いが、それ以降に発症するPVEのリスクは機械弁の方が低いという結果であった。生体弁、機械弁それぞれに異なったリスクがあり、累積危険度にははっきりとした差がないことから、感染性心内膜炎予防の観点からは生体弁、機械弁どちらか一方を推奨することは難しいと考えられる。
[1]ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第1版
[2] 2.Arvay A, Lengyel M. Incidence and risk factors of prosthetic valve endocarditis. Eur J Cardiothorac Surg 1988; 2:340.
[3] 3.Calderwood SB, Swinski LA, Waternaux CM, et al. Risk factors for the development of prosthetic valve endocarditis. Circulation 1985; 72:31.
[4] 5.Brennan JM, Edwards FH, Zhao Y, et al. Long-term safety and effectiveness of mechanical versus biologic aortic valve prostheses in older patients: results from the Society of Thoracic Surgeons Adult Cardiac Surgery National Database. Circulation 2013; 127:1647.
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