注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
呼吸器感染症患者の喀痰からでCorynebacterium.striatumが検出された場合、それを起因菌と判断してよいか?
Coryneform bacteriaは好気性または通性嫌気性のグラム陽性桿菌であり、現在約80数菌種に分類されている1)。Coryneform bacteriaの中でCorynebacterium.striatumは、健常人及び入院患者の皮膚及び粘膜常在菌であり、微生物検査で広く同定される。一方、C. striatumは術後肺炎患者から検出されることもある2)。
Tu-Xuan Nhanらは下部呼吸器感染症の疑いがあり喀痰培養からC. striatumを含めたCoryneform bacteriaが検出された27人の患者について調査を行った。この中で院内肺炎または人工呼吸器関連肺炎の診断基準を満たした15人と、菌は検出されたが診断基準を満たさなかった12人の患者を比較したところ、2つの患者群で統計学的または臨床的特徴の違いは見られなかったが、院内感染であると診断された患者の割合は前者(93%)が後者(50%)を大きく上回った(p=0.02)3)。
Feliu Renomらは18カ月(2004年1月~2005年6月)の間に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の既往がある21人の患者が呼吸器感染症により症状が増悪し、その患者らの喀痰からC. Striatumが検出された案件について調査を行った。観察期間中のC. Striatumによる呼吸器感染症発生の流行曲線が緩やかに成長していることから、ヒトからヒトへの伝搬による院内感染の可能性が示唆された。また、調査中に死亡した6人のうち、3人はC. Striatumのみが同定されており、他に死亡の原因となるものは無かった4)。
- Striatumは皮膚などの常在菌であるためコンタミネーションを起こしやすく5)、起因菌かどうかを明確に判断することは難しい。しかし、呼吸器感染症の患者の喀痰からC. Striatumが培養された場合、院内肺炎を疑う患者やCOPDが基礎疾患にある患者で肺炎を疑う場合は、コンタミネーションではなく肺炎の起因菌と判断するべきこともあると考える。
参考文献
1) 医学細菌学上重要なCorynebacterium属菌の検査法(日本臨床微生物学雑誌 Vol. 22 No. 3 2012. 1)
2) Mandell Douglas and Bennett’s PRINCIPLE AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASE
3)Microbiological investigation and clinical significance of Corynebacterium spp. in respiratory specimens.(Nhan TX1, Parienti JJ, Badiou G, Leclercq R, Cattoir V.)
4) Nosocomial Outbreak of Corynebacterium striatum Infection in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease▿ Feliu Renom1,*, Margarita Garau2, Mateu Rubí1, Ferran Ramis1, Antònia Galmés3 and Joan B. Soriano4
5) Clinical microbiology of coryneform bacteria. Funke G1, von Graevenitz A, Clarridge JE 3rd, Bernard KA.
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