注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
肺炎球菌は心内膜炎の起炎菌となるか?
自己弁の感染性心内膜炎の原因微生物としては、緑色連鎖球菌(30~40%),黄色ブドウ球菌(30%),腸球菌(10%),口腔内常在のグラム陰性菌(5%)があげられる。また人工弁の感染性心内膜炎の原因微生物としては、初期(術後2ヶ月以内)と後期(術後2ヶ月以降)ともにMRSA,黄色ブドウ球菌があげられる。(1) 上記のとおり感染性心内膜炎の原因微生物に肺炎球菌はあげられていないので、肺炎球菌が心内膜炎の起炎菌となるのかとその場合のリスクファクターについて調べてみることにした。
抗生物質ができる前の時代では肺炎球菌は感染性心内膜炎の起炎菌の15%をしめていたが、抗生物質の出現によりその割合は1980~1990年では3%未満となった。(2)
スペインで2000年以降に発症した肺炎球菌が起炎の心内膜炎111例の分析では、基礎疾患として肝障害(27.9%)や免疫不全(10.8%)が重要であるが、心疾患を基礎疾患として有していた人は少ない(16.2%)ことがわかった。(3) さらに、1991~2013年におこなわれた28の症例と56のコントロール(肺炎球菌以外が起炎の心内膜炎)による症例対象研究の結果を提示する。肺炎球菌以外が起炎の心内膜炎と比較しての特徴としては、アルコール中毒(39.3% vs.10.7%;P<.01)、喫煙歴あり(60.7% vs.21.4%;P<.01)、弁疾患の既往がない(82.1% vs.60.7%;P=0.047)、心不全あり(64.3% vs.23.2%;P<.01)、ショックあり(53.6% vs.23.2%;P<.01)というものであった。外科的処置がはるかに早い時期に64.3%の患者で必要となったが(平均で14.1±18.2 vs.69.0±61.1日)、院内での死亡率としては大きくは変わらなかった(7.1% vs.12.5%)(4)。
以上のことから、肺炎球菌による心内膜炎はたしかに存在し、肺炎球菌以外が起炎の心内膜炎とくらべて急性発症で活動的な進行をとることがわかる。弁疾患以外の基礎疾患がある患者におこりやすいので、そのような患者で肺炎球菌が血液などの無菌検体から同定されたときは心内膜炎をおこしていないか注意すべきであると考えられる。
参考文献
- 感染症まるごとこの1冊:矢野晴美 著
(2) Characteristics and Outcome of Streptococcus pneumoniae Endocarditis in the XXI Century
A Systematic Review of 111 Cases (2000–2013) Viviana de Egea, MD, Patricia Muñoz, MD, PhD, Maricela Valerio, MD, Arístides de Alarcón, MD, PhD, José Antonio Lepe, MD, PhD, José M. Miró, MD, PhD, Juan Gálvez-Acebal, MD, PhD, Pablo García-Pavía, MD, PhD, Enrique Navas, MD, PhD, Miguel Angel Goenaga, MD, María Carmen Fariñas, MD, PhD, Elisa García Vázquez, MD, PhD, Mercedes Marín, PharmD, PhD, Emilio Bouza, MD, PhD, and the GAMES Study Group
(3)Infectious endocarditis due to Streptococcus pneumoniae in a cardiac surgery patient: a new form of clinical presentation. Published online 2015 Dec 8. Juan Lacalzada, 1 Marta Padilla, 1 Alejandro de la Rosa, 1 and Ignacio Laynez 1
(4)Characteristics and prognosis of pneumococcal endocarditis: a case-control study. 2016 Mar 25. pii Daudin M1, Tattevin P2, Lelong B1, Flecher E1, Lavoué S3, Piau C4, Ingels A1, Chapron A5, Daubert JC1, Revest M6.
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