注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSA菌血症に対する抗MRSA薬の比較について
日本で使用可能な抗MRSA薬は、グリコペプチド系薬のバンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)、アミノグリコシド系薬のアルベカシン(ABK)、オキサゾリジノン系薬のリネゾリド(LZD)、そして環状リポペプチド系薬のダプトマイシン(DAP)の4系統5薬剤である。
VCMは、抗MRSA薬として最も早期に開発され、使用経験が豊富であり、MRSA感染症治療における標準薬と位置づけられている。(1) 今回は、MRSA菌血症の治療に使用される抗MRSA薬のなかで、日本で推奨されているVCM、DAP、LZD、TEICの比較について文献を検索し、考察した。(ABKに関しては、該当する論文がなかった。)
Fowlerらは、黄色ブドウ球菌による菌血症と右心系感染性心内膜炎の患者235人に対して、標準薬(抗黄色ブドウ球菌ペニシリンまたはVCM)とDAPのランダム化非盲検多施設試験を行った。(2) 治療の有効性は治療終了後42日時点での改善状況によって評価された。結果としては、DAPはVCMに劣らないというものであった(成功率: DAP: 44.2%[53/120] vs VCM: 41.7%[48/115]; [95% Cl-10.2% to 15.1%])。一方副作用に関しては、VCMの方がDAPより腎障害の出現が多く(DAP:11% vsVCM:26.3% P=0.004)、有意差はないものの治療中断が多かった(P=0.06)。これは、現在のMRSAのガイドラインでは推奨されていないゲンタマイシンの併用が行われたため出現が多かったためと考えられる。また、左心系心内膜炎に対しては、治療効果がやや劣っている可能性が指摘されていた。しかし、Guleriらによる臨床試験(EU-CORE)では(3)、左心系、右心系心内膜炎ともに2年間の無再発率のアウトカムに差はなかった(右心系93.5%、左心系88.3%)。
またLZD(4)およびTEIC(5)に関しても、MRSA菌血症に対するVCMとの比較試験において臨床的治癒率(LZD: 14/25[56%] vs VCM: 13/28[46%]; [OR]: 1.5[95% Cl. 0.5-4.3])、死亡率(TEIC: 17.4%[10/56] vs VCM: 13.4%[18/134] P=0.43)共に有意差はなかった。そしてLZD、TEICともに、VCMと比較して副作用の出現に統計学的な差はなかった。
以上より、MRSA菌血症の治療においてDAP、LZD、TEICのVCMに対する非劣性は示されている。抗MRSA薬の副作用としてVCMは腎障害、red man 症候群、DAPは高CK血症、LZDは血小板減少、TEICは肝障害、聴覚障害などが知られている。また、DAPは肺のサーファクタントで不活化され移行性が乏しい。個々の患者の基礎疾患や菌血症のフォーカスなどに応じて抗MRSA薬を使い分ける必要があると考える。
(1) Catherine Liu et al. Clinical Practice Guideline by the Infectious Disease Society of America for the treatment of Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus Infections in Adults and Children: CID 2011: 52(1 Feburary)
(2) Fowler VG Jr et al. Daptomycin versus standard therapy for bacteremia and endocarditis caused by Staphylococcus aureus:
N Engl J Med. 2006; 355(7): 653-665
(3) Guleri A et al. Daptomycin for the Treatment of Infective Endocarditis: Results from European Culbician Outcomes Registry and Experience (EU-CORE):
Infect Dis Ther. 2015 Sep; 4(3): 283–296.
(4) Shorr AF et al. Linezolid versus vancomycin for Staphyrococcus aureus bacteremia:
J Antimicrob Chemother. 2005; 56(5): 923-929
(5) Yoon YK et al. Multicenter prospective observational study of the comparative efficacy and safety of vancomycin versus teicoplanin in patients with health care-associated methicillin-resistant Staphyrococcus aureus bacteremia:
Antimicrob Agents Chemother. 2014; 58(1): 317-324
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