注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症レポート
テーマ:デング熱に対する検査はどれくらい正確なのか?
デング熱はフラビウイルス科のデングウイルス科に分類される蚊媒体のウイルス性疾患であり、現在熱帯地方で流行している感染症である。急性デングウイルス感染はPCR法によるウイルスRNAの検出やELISA法によるNS1抗原やIgM抗体が検出されることで診断される1)が、その検査結果はどの程度正確であるのかについて調べた。
Stuart D. Blacksell2)らは、2004年6月から2005年6月に急性デングウイルス感染の診断に対するNS1抗原とIgM抗原の検出の評価についての研究を行った。それによると、入院時(発熱から約5日目)のELISA法によるNS1抗原,IgM抗原の感度はそれぞれ63%(24/38), 45%(17/38)で特異度は100%,94%(51/54)であった。それに対して、回復期(発熱から約9日目)のNS1抗原,IgM抗原の感度は5%(2/38), 58%(22/38)で特異度は100%,72%(39/54)であった。また、NS1抗原の感度は発熱から1.2日目では100%(3/3)であるが、3.4日目では57%(4/7)、5.6日目では36%(9/25)、7日目以降では24%(10/41)と低下する。それに対してIgM抗原の感度は入院時(約5日目)と回復時(約9日目)を比較してもあまり変化はなく(図1)、NS1抗原とIgM抗原両方が陽性であったサンプルは全て発熱から4-8日後であった。また、デングウイルスには4つの血清型があるが、IgM抗原は全ての血清型で検出されたが、NS1抗原はDEN-3の2人の患者(0%)において検出されなかった。また入院時において、初感染でのNS1抗原とIgM抗原の感度は75%(3/4),75%(3/4)で、別の血清型による再感染では60%(20/33),39%(13/33)であった(図2)。
Piyanthida Pongsiriら3)がデングウイルスに対するreal-time RT-PCR法の感度・特異度を調べたところ、感度98%、特異度93%、正確性96%ということであった。
これらのことから、PCR法は感度・特異度も高い検査であるが、ELISA法と比較すると簡便性に欠ける。一方でELISA法は発症からの日数によって陽性となる抗原が変わるので、偽陰性に注意して検査することが重要である。デング熱を疑った際にはこれらのことに気をつけて迅速に行うべきである。
(レポート中の図は割愛)
参考文献
1)人獣共通感染症,木村哲、喜田宏 編、医薬ジャーナル社、2004:89-91.
2)Stuart D. Blacksell et al,Evaluation of the Panbio dengue virus nonstructural 1 antigen detection and immunoglobulin M antibody enzyme-linked immunosorbent assays for the diagnosis of acute dengue infections in Laos. Diagn Microbiol Infect Dis.2008(60):43-49
3)Pongsiri P, Praianantathavorn K, Theamboonlers A, Payungporn S, Poovorawan Y. Multiplex real-time RT-PCR for detecting chikungunya virus and dengue virus. APJTM. 2012;5(5):342-6
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