岡山の津田先生の論文です。このトピックはすでに議論されていると思っていましたが、ザラッと見るとあまり議論がないようで、かつ某MLで議論になったのでそこでのコメントと同じコメントをここでします。
http://journals.lww.com/epidem/Abstract/publishahead/Thyroid_Cancer_Detection_by_Ultrasound_Among.99115.aspx
この論文はEpidemiologyという専門誌に掲載され、医療者の間ではかなり話題になりました。海外のメディアも大きく取り上げているようです。日本のメディアが全く取り上げない、というのはやはり不自然です。褒めるにしてもけなすにしても黙殺するのはよくない、というのが昔からのぼくの意見です。普段は(STAP含め)なんの検証もなしに大本営発表(研究者のコメント)を丸写しするくせに、気持ち悪いくらいメディアはサイレントです。
さて、海外のメディアは、この論文の「キモ」として、福島で震災後に甲状腺がんが20~50倍増えている、ことを強調しているようです。例えばNYT
http://www.nytimes.com/aponline/2015/10/08/world/asia/ap-as-japan-nuclear-childrens-cancer.html?mwrsm=Email&_r=1
しかし、これはこの論文で行われているinternal comparison とexternal comparisonの後者のほうで、比較する対象は日本国立がんセンターの2001-08年のデータです。当然、スクリーニングのバイアスがかかっていると見るべきです。論文では「However, the magnitude of the irrs was too large to be explained only by this bias」とありますが、なぜそういえるのか根拠は明示されていません。2回やっているスクリーニングについても、this result cannot be explained by the screen- ing effect because most occult thyroid cancer cases would have been harvested in the first round screening.と書いていますが、やはり外的な比較とのバイアスの生じる余地については克服できていないと思います。
さらに、放射線曝露の程度に差があると想定される(この想定はざっくり、ですが)、福島県内の比較(internal comparison)、こちらはスクリーニングが徹底しており比較的バイアスのリスクが低いのですが、有意差は出ていません。least contaminated areaをreferenceにしていますが、1番近いところでも差がてていない。ただし、測定年が各コンパートメント異なるので、そこは議論の余地があると思います。
しかしながら、このようなことは著者自身含め、当然専門誌のレフリーだって気づきそうなもので、そこはよく分かりません。なので、ぼくのほうに勘違いがあるのかもしれません。御教示いただけますと幸いです。
というわけで、ぼくの読むところ、この論文を持って福島で震災後甲状腺がんが増えた、という結論をつけるのは難しいと考えます。
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