注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (以後、CNS) に対する抗菌薬ロック療法 (以後、ALT) の有効性
カテーテル関連血流感染 (以後、CRBSI) による菌血症の治療ではカテーテルを抜去し、抗菌薬全身投与が推奨される。しかし抜去した後、再留置した際の手術による合併症のリスクも考えられる。カテーテルを温存したまま治療を行う際、原因菌がCNSの場合、抗菌薬全身投与とALTによる併用治療も推奨されている。1) そこでCNSに対するALTの有効性について考察する。
CRBSIに対するALTの治療効果について調べた。Nuria Fernandez-Hidalgoらの研究は、CRBSIの98人の患者、全115例についての分析である。原因菌はグラム陽性菌 (CNS:56例、S.aureus:20例、他のグラム陽性菌:5例) が81例 (70%)、グラム陰性桿菌が26例 (23%)、多菌種が8例 (7%) である。これらの患者に対し、抗菌薬全身投与とALTの併用療法を行い、ALTとしてグラム陽性菌にはvancomycin (2000 mg/L)、グラム陰性桿菌にはciprofloxacin 又はamikacinを (2000 mg/L) 投与した。この研究において治癒は、カテーテルを抜去せずに、抗菌治療完了後1ヶ月以降の末梢静脈血液とカテーテル血液培養の両者で陰性であることと定義される。結果はCNSに関して全56例中治癒47例 (84%)、S.aureusに関して全20例中治癒11例 (55%)、他のグラム陽性菌に関して治癒5例中4例 (80%) と、S.aureusや他のグラム陽性菌に比べてCNSに対する治癒成功率は高かった (P<0.05)。2) J.Fortinらによる研究は、CRBSIの39人の患者、全48例についての分析である。原因菌はグラム陽性菌 (CNS:33例、S.aureus:7例) が40例 (83%)、グラム陰性桿菌が8例 (17%) であった。これらの患者を抗菌薬全身投与のみの患者群 (control群) と抗菌薬全身投与とALTの併用療法を行い、ALTとしてグラム陽性菌にはvancomycin (2000 mg/L)、グラム陰性菌にはciprofloxacin又はgentamaicin (2000 mg/L) を投与した患者群 (study群) に分類した。この研究において治癒失敗は治療中あるいは抗菌治療後1ヶ月以内にカテーテルを抜去し、カテーテル先端培養が陽性だった場合、そしてカテーテルが留置されている間に同じ表現型の菌による菌血症に再びなった場合と定義される。結果はCNSのCRBSIの患者群の治癒失敗率はcontrol群が19例中4例 (21%) に比べてstudy群は14例中1例 (7%) とstudy群の方が低い傾向にあった (P=0.36)。3)
以上よりCNSのCRBSIに対するALTの治癒率は他のグラム陽性菌よりも高く、ALTを行わなかった場合より治癒失敗率が低かったことからALTによる治療は許容されると考えられるが、いずれの研究も症例数が少なく数値の妥当性には限界がある。またCNSのCRBSIを評価したランダム化比較試験は存在しない。1) 今後大規模な比較試験が行われることが期待される。
【参考文献】
1) Leonald A. Mermel et al, Clinical Practice Guidelines for the Management of Intravascular Catheter-Related Infection:2009 Update by the Infectious Disease Society of America.
2) Nuria Fernandez-Hidalgo et al,Antibiotic-lock therapy for long-term intravascular catheter-related bacteraemia: results of an open, non-comparative study.J Antimicrobial Chemotherapy 2006;57:1172-1180
3) J.Fortun et al,Treatment of long-term intravascular catheter-related bacteraemia with antibiotic therapy. Journal Antimicrobial Chemotherapy 2006;58:816-821
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