注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
抗生物質含有PMMA (ポリメチルメタクリレート)の術後感染症(SSI)の予防効果について
人工関節置換術はQOLの改善に有効である一方、人工関節感染は深刻な合併症である。人工関節感染はSSIの側面を有し、予防がきわめて重要である。そのSSIの予防のために抗生物質含有PMMAを埋め込むことがある。抗生物質の中でもブドウ球菌の治療によく使われるゲンタマイシンとバンコマイシンを含有したPMMAによるSSIの予防効果について考察した。
E.B.Minelliらは、人工関節感染治療のために ゲンタマイシンとバンコマイシンを共に含有したPMMAの埋め込み後、24時間以内の関節液中の薬剤の濃度と、MRSAやCNSに対する阻害活性についての基礎研究を行ったところ、どちらの薬剤も初めは関節液中に非常に高濃度で放出され併用することで少なくとも24時間は阻害活性を示す高濃度に保たれていた。 (1)
M.Westbergらは、股関節形成術を受けた739人の患者のうち、一方の患者群には静脈内抗菌薬投与のみを行い、もう一方の患者群には静脈内抗菌薬投与に加えゲンタマイシン含有PMMAを埋め込む前向き多施設ランダム化比較試験を行ったところ、平均18ヶ月の観察期間でSSIに罹患した患者は前者で5.4%、後者で4.7%と有意差はなかった(p=0.77)。(2)
Nelson CLらは、膝関節または股関節形成術を受けSSIを起こした28人の患者のうち、一方の患者群には創部郭清と従来の静脈内抗菌治療を行い、もう一方の患者群には創部郭清とゲンタマイシン含有PMMAを埋め込む前向き多施設ランダム化比較試験を行ったところ、平均3年の観察期間でSSIの再発は前者で30%、後者で15%に見られたが統計的な有意差はなかった。(3)
以上より、基礎医学においては、抗菌活性は濃度依存性であり関節液中でも抗生物質含有PMMAから放出される抗生物質は高濃度を維持するため、抗生物質含有PMMAが抗菌活性をもつことがわかった。しかし、臨床的には、SSIの予防において抗生物質含有PMMAを従来の治療法に加える有用性は認められなかった。費用対効果の面から、SSIの予防には静脈内抗菌薬投与のみでよいと思われる。
〈引用文献〉
(1)Antimicrobial activity of gentamicin and vancomycin combination in joint fluids after antibiotic-loaded cement spacer implantation in two-stage revision surgery.:J Chemother. 2015; 27(1):17-24
(2)Effectiveness of Gentamicin-Containing Collagen Sponges for Prevention of Surgical Site Infection After Hip Arthroplasty: A Multicenter Randomized Trial:Clin Infect Dis. 2015;60(12):1752-1759
(3)A comparison of gentamicin-impregnated polymethylmethacrylate bead implantation to conventional parenteral antibiotic therapy in infected total hip and knee arthroplasty.:Clin Orthop Relat Res. 1993 ;(295):96-101
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