注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Enteric feverの治療においてアジスロマイシンを併用する有効性はあるか
パラチフスは、腹痛を伴う発熱という全身症状を特徴とするSalmonella Paratyphiによる感染症であり、Salmonella Typhiによる腸チフスと同様の臨床症状を示す(1)。この2つを区別する臨床的有用性は低く、enteric feverと呼ばれている。(2) 現在、合併症のない腸熱の治療レジメンとして、ハリソン内科学書の記載によると、感受性株はシプロフロキサシンまたはオフロキサシン、多剤耐性株とキノロン耐性株はセフトリアキソン(CTRX)またはアジスロマイシン(AZM)となっていた。いずれも単剤での投与が推奨されていたが、カンファレンスでCTRXとAZM併用が議論されたことから、その有効性について検討してみた。
Meltzerら(3)が行った、2009年にイスラエルで発生した同じDNAパターンを示すナリジスク酸耐性S.Paratyphi Aの患者37人に対する治療後の統計学的検証では、CTRX + AZM併用で治療された17人は解熱するまで3.2±1.7日であったのに対し、CTRX単剤で治療された13人では6.6日±1.8日(P< 0.001)を要した。治療失敗例はどちらの群にも存在しなかった。また、Tanejaら(4)の行ったenteric feverの1歳~15歳の患者51人に対する後ろ向き研究によると、CTRX + AZM併用で治療された19人の解熱までに要した時間は62.58±42.21時間であったのに対し、CTRX単剤で治療された32人は解熱するまで96.15±42.53時間(P< 0.05)であった。
一方で、Frenkら(5)(6)の行った2つのenteric feverの患者に対するAZM単剤とCTRX単剤のランダム化比較試験によると、どちらの試験も、再燃率はCTRX単剤群が有意に多かったが、治癒率、解熱までの時間にAZM単剤群とCTRX単剤群の間で有意差はなかった。また、Jogら(7)のenteric fever患者に対する後ろ向き研究の報告の中では、CTRX単剤で治療された74人は解熱するまで4.4日であったのに対し、CTRX + AZM併用で治療された16人は5.5日(P=0.06)要しており、2剤併用の優越性はないとされた。
以上の報告では、CTRX単剤、AZM単剤での治療群とCTRXとAZMの併用群間で、少なくとも治癒率には差は認めたものはなく、解熱までの期間を短くする可能性を示唆する文献も見られたものの、これに否定的な報告も見られた。いずれも小規模で後ろ向きの研究であることから、確実な結論は導けず、現時点でCTRX + AZM併用を推奨するものではないと考えた。
【参考文献】
1)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル第3版:p695-700
2) Elizabeth L Hohmann, Stephen B Calderwood, Allyson Bloom. Epidemiology, microbiology, clinical manifestations, and diagnosis of typhoid fever. UpToDate
3) Meltzer E, Stienlauf S, Leshem E, Sidi Y, Schwartz E. A large outbreak of Salmonella Paratyphi A infection among israeli travelers to Nepal. Clin Infect Dis. 2014 Feb;58(3):359-64. doi: 10.1093/cid/cit723. Epub 2013 Nov 5
4) Arvind Taneja, Tania Boreyko, Chandrasekhar Singha, Aparna Chakravarty. THERAPEUTIC CONUNDRUM OF SALMONELLA. e-Max Medical Journal. 2010 Nov
5) Frenck RW Jr, Nakhla I, Sultan Y, Bassily SB, Girgis YF, David J, Butler TC, Girgis NI, Morsy M. Azithromycin versus ceftriaxone for the treatment of uncomplicated typhoid fever in children. Clin Infect Dis. 2000 Nov;31(5):1134-8. Epub 2000 Nov 6.
6) Frenck RW Jr, Mansour A, Nakhla I, Sultan Y, Putnam S, Wierzba T, Morsy M, Knirsch C. Short-course azithromycin for the treatment of uncomplicated typhoid fever in children and adolescents. Clin Infect Dis. 2004 Apr 1;38(7):951-7. Epub 2004 Mar 12.
7) Jog S, Soman R, Singhal T, Rodrigues C, Mehta A, Dastur FD. Enteric fever in Mumbai--clinical profile, sensitivity patterns and response to antimicrobials. J Assoc Physicians India. 2008 Apr;56:237-40.
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