注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カンジダ血症疑いの患者に対する早期フルコナゾール投与の有効性
カンジダ属は侵襲性真菌感染症で最多の原因真菌であり、カンジダ血症の死亡率は最大で 47%とも言 われている(1)。しかしながら、血液培養によるカンジダ血症の早期診断は難しく、血液培養採取後 24 時 間以内にカンジダ血症患者に抗真菌薬投与を開始している割合は約 30%であるとされている(2)。カンジ ダ血症が疑われる患者に対し、C.albicans、C.parapsilosis、C.tropicalis など多くの原因菌に感受性を示 すフルコナゾールで治療を早期に開始することの有効性について以下に考察する。
Garey ら(2)は、230 人のカンジダ血症患者に対し後ろ向きコホート研究を行い、血液培養にて酵母菌陽 性となってからフルコナゾール治療開始までの時間(day0.1.2.3≦)と死亡率の関係を調査した。死亡率 は、治療開始日数が遅れるごとに増加した(day0 15.4%,day1 23.7%,day2 36.4%,day3≦ 41.4%,P=0.0009)。さらに、フルコナゾール投与を day0~1、day2≦に開始した患者それぞれの治療後 ICU 滞在期間も day0~1 で優位に短縮された(P=0.03)。また、死亡率を増加させる要因として、APACHE IIスコア高値(P<0.001)、ICU への入院(P<0.001)、ステロイド治療(P=0.036)、人工呼吸器装着(P<0.001) を挙げている。
カンジダ血症のリスク因子として、カンジダ属定着、 疾患の重症度、投与した広域抗菌薬の数と投与 期間、手術歴 (特に腸管手術の既往)、透析治療の実施、中心静脈カテーテルの使用、経静脈栄養の実施、 ICU 入院期間の長さが挙げられる(1)。以下の 2 つの研究は、リスク因子のある患者に対し、確定診断前 にフルコナゾールを開始した経験的治療の有効性を述べている。Piarroux ら(3)は 2 年間の研究で、SICU 入院日数が 5 日以上の患者のうち Candida colonization index(colonization 部位数/総検査部位数)が 0.4 以上となった患者にフルコナゾール(1 日目 800mg、2 日目以降 400mg/day を 2 週間)で診断前に 治療を開始した群と、過去 2 年間の SICU 入院日数が 5 日以上の患者で診断前治療介入を行っていない コントロール群との比較を行った。カンジダ血症に至った患者は治療介入群(3.8%)とコントロール群 (7%)で有意差(P=0.03)がみられた。Shan ら(4)は、腸管手術後に発熱を伴う遷延性イレウスを発症 した 36 人の患者に対し、フルコナゾール(400mg/day)で診断前に治療を開始した群と、診断に至るま で治療を行わなかった群の比較を行った。診断前治療開始群ではコントロール群と比較して、解熱に至 る期間、入院期間、ICU 入院期間いずれも短縮され、死亡率は著しく低下した(11%vs78%,P<0.001)。
今回調べた文献では、SICU 入院、カンジダ菌定着、腸管手術後というリスク因子のある患者に対し、 フルコナゾール投与を速やかに開始することは非常に有効であることがわかった。経験的抗真菌薬治療 開始の基準は明らかになっていない(1)が、リスク因子を有しカンジダ血症が疑われる患者に対し、他の原 因が考えられない場合に、診断確定前にフルコナゾール投与を開始することは、死亡率の低下、臨床症状 の改善期間の短縮につながると考えられる。
(1) カンジダ症治療の実践的臨床ガイドライン: 米国感染症学会による 2009 年改訂版
(2) Garey KW, Rege M, Pai MP, et al. Clin Infect Dis, Time to initiation offluconazole therapy impacts mortality in patients with candidemia: a multi-institutional study.2006;43:25–31
(3) Piarroux R1, Grenouillet F, Balvay P, Tran V, Blasco G, Millon L, Boillot A.Crit Care Med. Assessment of preemptive treatment to prevent severe candidiasis in critically ill surgical patients.2004 Dec;32(12):2443-9.
(4) Shan YS1, Sy ED, Wang ST, Lee JC, Lin PW. World J Surg. Early presumptive therapy with fluconazole for occult Candida infection after gastrointestinal surgery.2006 Jan;30(1):119-26.
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