注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
脳神経外科的術後の細菌性髄膜炎の身体所見について
市中感染による細菌性髄膜炎では古典的3徴と呼ばれる発熱、頭痛、頚部硬直が臨床的に言われており、その他、傾眠から昏睡と様々なレベルの意識障害は75%以上、痙攣発作は20~40%の患者で認められる。頭蓋内圧亢進症を合併した場合は散瞳などの神経学的所見に加えCushing反射(徐脈、高血圧、不規則呼吸)が認められ、髄膜炎菌血症では体幹と下肢を中心に皮疹、点状出血が見られる(1)などと様々な身体所見を呈する。身体診察については髄膜刺激反応を利用したKernig徴候やBrundzinski徴候、jolt accentuationも特異度が高い診察であると幾多の報告がなされてきた(2)。市中感染の原因以外に、開頭術や脳室腹腔シャント術、脊髄穿刺などの脳神経外科的術後、脳血液関門や頭蓋の皮膚からのバリア機構が破綻することが原因で細菌性髄膜炎が合併することが知られている。今回、術後の細菌性髄膜炎発症が疑われるが、髄液検査が施行できないという症例を経験した為有用な身体所見、身体診察について調べてみた。
1986年から2001年の術後院内発症の成人細菌性髄膜炎62症例の後ろ向き研究で、発熱87.0%、進行する意識障害79.0%、痙攣発作17.7%の有症状率が報告された(3)。また、2001年~2003年の49症例の同様の後ろ向き研究では、発熱92%、意識障害(GCS<10)28.6%、発疹51%の有症状率が報告された(4)。以上の報告から、市中髄膜炎と同じく発熱、意識障害は感度が比較的高い身体所見であることは分かった。しかし、頚部硬直、Kernig徴候やBrundzinski徴候、jolt accentuationに関する報告は見つけることができなかった。開頭術など侵襲度の高い手術後、そもそも疼痛で頚部を屈曲することが難しいからではないだろうか。
市中感染による細菌性髄膜炎は死亡率約20%と速やかな治療の開始が患者の生命予後を左右し、髄膜炎が疑われたら即座に血液培養を実施し、早急に経験的抗菌薬治療を開始しなければならない(1)。それと同様、術後に合併した髄膜炎も34%(3)、40%(4)とさらに高い死亡率が報告され、早急な治療が必要となる。しかし、今回調べた結果、早期の診断に有用な特異性の高い身体所見の報告は見つからなかった。発熱、意識障害は細菌性髄膜炎を合併した患者の多くが有する症状であるが、多くの疾患に共通する身体所見であり、診断までに様々な検査の過程がある。もし、脳神経外科的術後の患者に発熱が見られたら、意識障害はないか、皮疹や痙攣、中枢神経の異常を示唆する神経所見、髄膜刺激反応はないか、胸部の聴診、X線写真、腹部の触診、叩打痛の有無、血液検査、尿検査、あらゆる検査で呼吸器系、尿路系、消化器系、中枢神経系の感染臓器を早急に調べなければならない。意識障害が見られたら、治療を急ぐ病態として細菌性髄膜炎合併の可能性を念頭に置きつつ、電解質異常などの代謝性、利尿薬などの薬剤性、中枢神経系の原因:脳血管のイベント、硬膜下血腫など腫瘤病変を鑑別に挙げる。代謝性の意識障害は血液検査ですぐに発見できるが、薬剤が原因であれば薬剤を中止して数日の経過を見なければ分からない。代謝性が除外されたら、中枢神経系の異常を疑い、同じく皮疹などの身体所見の有無を確認して、頭部CTや髄液を行う必要がある。術後髄膜炎の合併は0.40%と報告され、近年増加していることが指摘されている(3)。髄液検査が施行できない患者の場合、早期の診断のため、臨床経過から判断せざるを得ないが、診断の感度、特異度を上げるための身体所見や診察の研究は重要であると思われる。
参考文献
(1)ハリソン内科第3版2-2720-2724
(2) 論理的診察の技術 David L,Simel,MD,MHS.Drummonde Rennie,MD;2008:
第30章この成人患者は急性髄膜炎か?399-409
(3) Wang KW (2005) Post-neurosurgical nosocomial bacterial meningitis in adults: microbiology, clinical features, and outcomes.J Clin Neurosci. Aug;12(6):647-50.
(4) Erdem I (2008) Clinical features, laboratory data, management and the risk factors that affect the mortality in patients with postoperative meningitis. Neurol India. Oct-Dec;56(4):433-7.
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