注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『骨髄炎に対するVAC療法の有効性』
VAC療法(陰圧創傷閉鎖療法)は、創傷治癒を促進する目的で多くの創傷の治療に補助的に用いられる。その方法は、創傷表面を被覆することにより密閉し、吸引ポンプで内部を吸入して陰圧にすることである。その機序には、被覆による浸潤,吸引による浮腫の軽減や血流の増加,壊死組織・細菌の除去,物理的変形の刺激による肉芽組織形成促進などがある。(1)(2)このように、VAC療法は創傷治癒促進に効果があるとされるが、骨髄炎に対するVAC療法の有効性について調べた。
Tanらは、2005~2009年の間に骨髄炎を発症し開放性損傷の管理を必要とした68人の患者を対象とし、成人の骨髄炎に対するVAC療法の有効性について評価した。68人のうち35人はVAC療法が行われた患者(VAC群),33人は従来の開放性損傷に対する治療が行われた患者(Conventional群)であり、これらを比較した。再発は、VAC群では1例,Conventional群では7例であり、VAC群で有意に減少した(p<0.05)。自家皮膚移植または皮弁形成術を必要とした症例は、VAC群では17例,Conventional群では26例であり、VAC群で有意に減少した(p<0.05)。また、細菌培養の陰性化は、VAC群では29例,Conventional群では15例であり、VAC群で有意に増加した(p<0.05)。(2)以上より、骨髄炎にVAC療法を用いることにより、再発率,手術を必要とした件数の低下と感染のコントロールという点で有効であった。
Mouës らは、外科的閉鎖の前に開放性損傷の管理を必要とした54人の患者(原因として、骨髄炎を含む感染症,外傷,縫合不全,褥瘡)を対象とした前向きランダム化試験を行った。VAC群29人とConventional群25人に振り分け、これらを比較した。VAC療法では、創傷の表面積の減少(3.8±0.5 vs. 1.7±0.6%/day. p<0.05)が有意にみとめられたが、定量的な全細菌量の変化(0.06±0.05 vs.-0.05±0.07% p=0.22)に関しては両群共に有意な変化がみられなかった。(3)以上より、創傷の表面積が有意に減少したことからVAC療法は創傷治癒促進に寄与するといえる。また、VAC療法による細菌量の有意な変化はみられなかった。
以上より、VAC療法は創傷治癒促進に有効であり、かつ皮膚移植や皮弁形成術を回避できる可能性を上げる。感染のコントロールについては、前者の論文では有効,後者の論文では有意な変化はなかったことから、少なくとも感染を増悪することはないといえる。
<参考文献>
1)Up To Date: Negative pressure wound therapy: Introduction, Mechanism of action
2)Y. Tan, X. Wang, H. Li, Q. Zheng, J. Li, G. Feng, Zhijun Pan. The clinical efficacy of the vacuum-assisted closure therapy in the management of adult osteomyelitis. Arch Orthop Trauma Surg. 2011 Feb; 131(2):255-9.
3) Mouës CM, Vos MC, van den Bemd GJ, Stijnen T, Hovius SE.Bacterial load in relation to vacuum-assisted closure wound therapy: a prospective randomized trial. Wound Repair Regen. 2004 Jan-Feb;12(1):11-7.
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