注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ペースメーカ関連感染症患者から摘出したペースメーカを再利用することは安全で有用か
近年、心臓ペースメーカや電気的除細動器の心臓埋込み電子装置(cardiovascular implantable electronic device〈CIED〉)の使用頻度は増加している。CIED関連感染(device related infection〈DRI〉)を起こした場合、CIEDはDRIの治療のために摘出される。(1)厚生労働省の統計によると輸入品が殆どを占め(2)、償還価格はペースメーカで50万円以上・埋め込み型除細動器で約300万円と高価である。(3)また、日本ではCIEDの再利用は添付文書では禁止されている。もしCIEDを再利用できるならば、災害など新しいCIEDが入手困難な事態に対応でき、また経済的な問題を抱えている国(日本経済新聞によると医療機器は2012年で約7000億円の貿易赤字(4))や患者の需要に応えやすくなる(寄贈、再利用など)と考え、DRIによって摘出されたCIEDを再利用することは安全かどうかを考察した。
60件のstudy(21の前向き調査、9の症例対象研究、30の後ろ向き調査)のmeta-analysisによるとDRIの平均罹患率は1-1.3%である。(5)DRIによりCIEDを交換した患者168人に対する後ろ向き研究によると、DRIによりCIEDを交換した後、再びDRIを発症しCIEDの交換をした者は9人(5.4%)であった。(6)よって、DRIによりCIEDを交換した場合、再度DRIによりCIEDを交換する確率が高い、つまり交換回数が増えると考えられる。
また、18のstudy(2270人)のmeta-analysisによると、再利用されたCIEDを利用した場合の感染率は1.97%(1.15-3.00%)で、新しいCIEDと交換した場合を比較するとオッズ比が1.31(0.50-3.40、P=0.580)であった。(7)よってCIEDを再利用することがDRIのリスクを高めるとはいえない。しかしこの研究では、再利用されたCIEDがDRIによって摘出されたものであるかどうかは言及されていないため、DRIにより摘出されたCIEDを再利用することが感染のリスクを高めるのかを考える必要がある。
DRIによりCIEDを摘出した患者の中で、洗浄・滅菌して自己に再植え込みを行った者99人と、新しいCIEDを再植え込みした者113人とを比較した非劣性試験が中国で行われた。前者では再感染を起こしたものは3人(3%)、後者では2人(1.7%)であり、相対危険度は1.29(95%信頼区間 0.62-2.29,P=0.561)であった。(8)つまりDRIによって摘出されたCIEDを洗浄し滅菌すれば、そのCIEDを再利用しても感染のリスクが高まるとはいえないことがわかった。
以上をまとめる。一度DRIによりCIEDを交換した場合、再びDRIによりCIEDを交換する確率が高くなるため、DRIに罹患した患者はCIEDを交換する回数が増えてより費用がかかる。しかし、DRIにより摘出されたCIEDは洗浄・滅菌を行い再利用すれば、新しいCIEDを使用する場合に比べてDRIに再罹患するリスクは高まらないため、安全かつ低コストでCIEDを再植え込みできる。よってDRIにより摘出されたCIEDを十分洗浄し滅菌すれば、低コストで安全にCIEDを再利用することが出来ると考えられる。
参考文献
(1)青木眞,レジデントのための感染症診療マニュアル,第3版:p661-663
(2)政府統計の総合窓口."平成25年(統計表)薬事工業生産動態統計調査"http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001128704&requestSender=search
(3)一般社団法人日本不整脈デバイス工業会 http://www.jadia.or.jp/index.html
(4)日本経済新聞.” 医療機器・薬は大幅な貿易赤字 「病院輸出」で歯止め狙う” 2014/8/24 2:00 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13H0R_Z10C14A8CR8000/
(5)Polyzos KA et al.Risk factors for cardiac implantable electronic device infection: a systematic review and meta-analysis.Europace. 2015 May;17(5):767-77.
(6)Saeed O et al..Rate of cardiovascular implantable electronic device(CIED)re-extraction after recurrent infection.Pacing Clin Electrophysiol. 2014 Aug;37(8):963-8.
(7)Baman TS et al.Safety of pacemaker reuse: a meta-analysis with implications for underserved nations.Circ Arrhythm Electrophysiol. 2011 Jun;4(3):318-23.
(8)Ze F et al.Reuse of infected cardiac rhythm management devices in the same patients: a single-center experience.Pacing Clin Electrophysiol. 2014 Aug;37(8):940-6.
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