注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科 BSLレポート
ペースメーカー植え込みにおける術前の予防的抗菌薬投与の有用性について
ペースメーカーや植え込み式除細動器といったデバイスを使用する患者は増加しており、臨床の現場でデバイスの感染症に遭遇する機会は増えている。(1)(2)デバイス感染症は局所感染、血流感染いずれも起こしうるもので、時として致命的になる場合もある。(3)そのため今回はその予防、中でも術前の予防的抗菌薬投与の効果について検討した。
Da Costaらによる、1981年から1994年の間に発表された7つのランダム化比較試験に関するメタアナリシスでは、2023例の永久ペースメーカー植え込み患者において予防的抗菌薬全身投与群とコントロール群とを比較した。その結果、術後感染が抗菌薬投与群では5例、コントロール群では37例であった。(4)
1998年から2001年にBertagliaらが行った単施設前向きコホート研究では、852例の永久ペースメーカー植え込みまたはジェネレーター交換患者に対して術前のみにセファゾリン2g静注を行ったところ、感染症合併が認められたのが術後2ヶ月以内でポケット周囲の炎症所見などの軽症例が9例(1%)、その後の長期間(平均25.6か月)のフォローアップにおいて敗血症やポケット膿瘍形成などの重症例が6例(0.7%)であった。(3)
また2003年から2005年にかけてde Oliveiraらによって行われた単施設大規模ランダム化二重盲検試験では、649例の初回デバイス(ペースメーカー、植え込み式除細動器)植え込みまたはジェネレーター交換の患者を術前のみにセファゾリン1g静注管理を行うグループとプラセボグループに分け術後6ヶ月までフォローアップしたところ、13例で感染症合併が認められ、全例術後33日以内の発症であった。セファゾリンを予防目的で投与したグループにおいて有意に感染症の合併率が低下しており(P=0.016)、使用するデバイス間で合併率に有意差は認められなかった。この試験は1000例を計画としていたが、649例の段階で有意差が認められたためその時点で中止となっている。(5)
Bertagliaら、de Oliveiraらによる2文献については術前のみのセファゾリン単剤投与であることから、セファゾリンは早期合併症の予防について有用であると言える。一方、メタアナリシスで検討されている試験はエンドポイントや抗菌薬治療が統一されておらず、術後にも投与を行っている試験がいくつかある。そのため予防的抗菌薬投与は有用であると言えるものの、最適な抗菌薬やその投与期間については評価し難い結果であった。
従ってこれらの文献から術前の予防的抗菌薬投与について述べられるのはセファゾリンの有用性のみで、他の抗菌薬については不明である。また、いずれの文献においても感染症を合併している症例数が少ない。今後はより多くの薬剤について大規模な研究が行われ、さらなる有用性が確立されることを期待する。
参考文献
(1) レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木眞
(2) Baddour LM,Cha YM,et al.Infections Cardiovascular Implantable Electronic Devices.N Eng J Med.2012
Aug 30;367(9):842-849
(3) Emanuel Bertaglia, Zerbo F et al.Antibiotic Prophylaxis with a Single Dose of Cefazolin During Pacemaker Implantation:Incidence of Long-Term Infective Complications. Pacing Clin Electrophysiol. 2006 Jan;29(1):29-33.Da Costa A, Kirkorian G,et al.
(4) Da Costa A, Kirkorian G,et al. Antibiotics Prophylaxis for Permanent Pacemaker Implantation:
A Meta-Analysis.Circulation.1998;97:1796-1801.
(5)de Oliveira JC,Martinelli M,et al. Efficacy of Antibiotics Prophylaxis Before the Implantation of Pacemakers and Cardioverter-Defibrillators:Results of a Large,Prospective,Randomized,Double-blinded, Placebo-Controlled Trial.Circ Arrythmia Electrophysiol.2009;2:29-34
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