注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Diabetic foot infection(DFI)に対する初期治療における緑膿菌カバーの必要性について
糖尿病性足疾患は、神経障害や血流障害を合併した糖尿病患者の下肢に生じる感染症、潰瘍、深部組織の破壊性病変の総称である⁽¹⁾。このうち、局所の腫脹や熱感などの感染所見を呈するものがDFIと定義される。DFIの起炎菌としては黄色ブドウ球菌、連鎖球菌が多くみられる。さらに嫌気性菌(Bacteroides属の仲間、嫌気性の連鎖球菌)、大腸菌などの腸内細菌科、腸球菌、緑膿菌、Proteus属なども関与しうる。創部の培養からは多菌種が検出されることが多いが、検出されたすべての細菌を治療する必要はないとされている⁽²⁾。今回は抗菌薬の選択について重要な役割を持つ緑膿菌を初期治療においてカバーする必要があるのかどうかを考えてみた。
2001年から2004年の間に行われた、骨髄炎を含まない中等症以上の、抗菌薬の静脈内投与を必要とする586人の患者を対象にしたランダム化二重盲検多施設共同研究では、DFIに対する初期治療として緑膿菌をカバーしないertapenem⁽³⁾と、カバーするpiperacillin/tazobactamをそれぞれ5日間投与した⒉群を比較した。結果、解熱、採血検査所見、創部所見の改善を治癒の指標として治癒率を比較すると、検出された細菌にかかわらず、ertapenem群では94%、piperacillin/tazobactam群では92%で、両群に有意差はなかった。またDFIを含む皮膚軟部組織感染症において540人を対象に、同様にertapenemとpiperacillin/tazobactamを比較した研究でも、治癒率はertapenem群では82.4%、piperacillin/tazobactam群では84.4%の症例で改善がみられ両群に有意差はなかった⁽⁵⁾。しかしこれらの研究は、①治療期間と追跡期間が短く、長期の治療成績が不明であること、②研究が行われた地域ではDFIでの緑膿菌の検出率が少なく(前者では4.8%、後者では2.8%)、緑膿菌が培養検体から発育した場合で、同菌をカバーすることにより治癒率に差があるかが確認できていないことが問題点として挙げられる。たとえば、インドではDFIの培養検体における緑膿菌の検出率が22%⁽⁶⁾~29.8%⁽⁷⁾であるが、同地域でも同様の結果が得られるかは分かっておらず、米国感染症学会のガイドラインでも検出率の高い地域では初期治療において緑膿菌のカバーを考慮する⁽⁸⁾、とされている。
上記の考察から、骨髄炎を含まない中等症のDFIに対して、緑膿菌の検出が少ない地域では、初期治療において緑膿菌をカバーする必要はないが、更なる検証として、長期間の治療効果の追跡と、緑膿菌がDFIの培養検体から多く検出される地域での比較研究を行う必要があると考える。
参考文献
1)糖尿病の最新の治療2013-2015 岩本安彦 羽田勝計 門脇孝著
2)レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木 眞著
3)ANTIBIOTIC ESSENTIALS BURKE A.CUNHA,MD
4)Lipsky BA, Armstrong DG, Citron DM, Tice AD, Morgenstern DE, Abramson MA. Ertapenem versus piperacillin/tazobactam for diabetic foot infections (SIDESTEP): prospective, randomised, controlled, double-blinded, multicentre trial. Lancet 2005; 366:1695–703
5) Graham DR, Lucasti C, Malafaia O, et al. Ertapenem once daily versus piperacillin-tazobactam 4 times per day for treatment of complicated skin and skin-structure infections in adults: results of a prospective, randomized, double-blind multicenter study. Clin Infect Dis 2002; 34:1460–8
6)Bansal E, Garg A, Bhatia S, Attri AK, Chander J. Spectrum of microbial flora in diabetic foot ulcers. Indian J Pathol Microbiol 2008; 51:204–8
7) E.M. Shankar,et al. Bacterial etiology of diabetic foot infections in South India European Journal of Internal Medicine 16 (2005) 567 – 570
8) 2012 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Treatment of Diabetic Foot Infections
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