注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
S.aureusによる市中髄膜炎、術後髄膜炎の違いとその治療期間
Staphylococcus aureus は細菌性髄膜炎の起因菌のひとつであり、細菌性髄膜炎の原因の約1割を占める。特に脳外科手術後に細菌性髄膜炎をおこす際の原因であることが多く、S.aureusによる細菌性髄膜炎の63%は術後髄膜炎である(1)。
S.aureusの市中髄膜炎と術後髄膜炎はほとんど共通の臨床症状を示すが、一部異なる傾向を示す。市中髄膜炎の患者の平均年齢は59.3歳で、術後髄膜炎の40.3歳と比べて患者の平均年齢が高い (P=0.04)。また、市中髄膜炎の方が、異常な精神状態に陥る率 (75% vs. 39%; P=0.02)、重篤な合併症を持つ率 (87% vs. 28%; P<0.01)、菌血症を合併する率 (75% vs. 7%; P<0.01)、敗血症性ショックを合併する率 (44% vs. 0%; P<0.01) が高くなっている。結果として、市中髄膜炎の方がより重篤な経過を取りやすく、死亡率も高い(50% vs. 14%; P=0.01) (1)。
治療は、市中発症の場合は可能な限り早期の抗菌薬投与が、術後発症でシャントなどの人工物が挿入されている場合は、汚染されたシャントの抜去+頭蓋外への別シャントの設置+抗菌薬の投与が、基本である(2)。抗菌薬の選択は、起因菌がMSSAとMRSAとの場合で異なる。MSSAは、nafcillinもしくはoxacillinが第一選択 (エビデンスレベルA-III、以下同様)、代替薬としてはvancomycinもしくはmeropenem (B-III) がある。ただ、本邦では第一選択となる薬剤が未承認となっており、ceftriaxoneやsulbactam/ampicillinを使用する場合も多い。MRSAはvancomycin(rifampinの追加も考慮)が第一選択 (A-III)で、感受性があれば、代替薬としてtrimethoprim-sulfamethoxazoleもしくはlinezolid (B-III) を用いることができる(3)。
治療期間に関しては、一般的に2週間~3週間程度とされている(1)(4)。しかし、この治療期間を決定するに足る十分なエビデンスは、検索した範囲では見つけることができなかった。44例のS.aureusによる髄膜炎の症例を集めた研究によると、治療期間の平均日数は22.5日であり、最短は1日、最長は100日と症例により大きな差がある。ここに影響する因子のひとつとして先行するブドウ球菌性感染(心内膜炎や硬膜外膿瘍)が挙げられるが、先行感染のない症例でも治療期間の差は大きい(1)。治療期間に幅がある分、主治医は患者個々の臨床症状と合併症を考慮しながら治療期間を決定する必要がある(5)。したがって、上記のように重症例の多い市中髄膜炎の方が、術後髄膜炎より治療期間が長くなる傾向にあると考えられる。
(1) V.pintado et al. “Clinical Study of 44 Cases of Staphylococcus aureus Meningitis.” Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2002; 21: 864-868
(2) レジデントのための感染症診療マニュアル第3版/医学書院/青木眞/2015年3月出版
(3) Allan R. Tunkel, et al. “Practice Guidelines for the Management of Bacterial Meningitis.” CID Nov. 2004; 39: 1267-1284
(4) Catherine Liu, et al. “Clinical Practice Guidelines by the InfectiousDiseases Society of America for the Treatment of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Infections in Adults and Children.” CID Feb. 2011; 52: e18-e55
(5) 細菌性髄膜炎の診療ガイドライン/日本神経感染症学会治療指針作成委員会/神経治療Vol.24 No.1/2007年編纂/1-64
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