注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
SBPは二次性の腹腔内感染のない腹水の感染であると定義され、主として非代償性肝硬変に合併する(1)。腹水のある肝硬変患者のSBPの有病率は約10%で(2)、腹痛や発熱のような腹膜炎を示唆するような所見、肝性脳症、肝機能障害や腎不全、あるいは消化管出血を呈している患者もいる。しかし、腹痛や発熱などの臨床症状の感度および特異度は低く(2)、SBPの患者の約10%は無症候性である(1)。
そのためThe International Ascites Club (IAC)のコンセンサスガイドライン(3)では、SBPの診断は診断的腹腔穿刺に基づくと明記されている。腹膜感染は炎症反応を引き起こし、その結果、腹水中の多核白血球数 number of polymorphonuclear leukocytes (PMN)を増加させる。ガイドライン(3)によると、現在SBPの診断に対して最も感度の高いものはPMN≧250/mm3である。カットオフ値をPMN≧500/mm3とすると特異度は高くなるが、PMN 250−500/mm3の患者で治療の開始が遅れるリスクを負うべきでないため、PMN≧250/mm3であれば経験的抗生剤治療を開始できる。一方で、PMN<250/mm3であればSBPの診断は除外できるが、このような場合で腹水の培養が陽性になる状態をbacteriascitesといい、再度腹腔穿刺を行いPMNと培養を評価すべきである。腹痛や発熱などの炎症症状を呈している患者におけるbacteriascitesはSBPに発展する初期段階であると考え、抗生剤治療を開始する。腹水の培養は、SBPを示唆する臨床症状とPMNの増加が認められる患者において60%近くが陰性となるため(4)、腹水と血液の培養が陰性でもPMN≧250/mm3の場合はculture-negative SBPといい、SBPと同じ臨床経過をたどるためSBPと同様に治療を開始してよい。
PMNおよび培養以外に、腹水の肉眼的所見はSBPの診断に対する感度が98.1%、特異度が22.7%で肉眼的に混濁していないclearな腹水であればSBPを否定できる可能性があるとする報告(5)もあるが、肉眼的評価は検者によるところが大きく客観的な評価とはいえない。
以上より、SBPの診断においては、腹水中のPMN以外の臨床症状や所見のみによる診断はできず、背景に肝硬変のある患者でSBPが疑われる場合、積極的に腹水の検査を行うことが推奨される。
参考文献
(1) Such J, Runyon BA. Spontaneous bacterial peritonitis. Clin Infec Dis 1998; 27: 669
(2) Wong CL, Holroyd-Leduc J, Thorpe KE, et al. Does this patient have bacterial peritonitis or portal hypertension? How do I perform a paracentesis and analyze the results? JAMA. 2008 Mar 12; 299(10): 1166-78
(3) Rimola A, Gracia-Tsao G, Navasa M, et al. Diagnosis, treatment and prophylaxis of spontaneous bacterial peritonitis: a consensus document. International Ascites Club. J Hepatol 2000; 32: 142-153
(4) European Association for the Study of the Liver. EASL clinical practice guidelines on the management of ascites, spontaneous bacterial peritonitis, and hepatorenal syndrome in cirrhosis.
J Hepatol 2010 Sep; 53(3): 397-417
(5) Chinnok B, Hendey GW. Can clear ascitic fluid appearance rule out spontaneous bacterial peritonitis? Am J Emerg Med. 2007 Oct; 25(8): 934-7
(6) Guarner C, Soriano G. Spontaneous bacterial peritonitis. Semin Liver Dis 1997; 17: 203-217
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