注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「脊髄損傷後の褥瘡に合併する骨髄炎を診断するのにMRIは有用か」
脊髄損傷後の慢性合併症として、褥瘡は合併しやすく、不随となって20年以内の発生率はおよそ3割である。(1)褥瘡に合併する深部感染として、骨髄炎はよくみられ、褥瘡感染の17~32%に骨髄炎を合併する。(2,3)
骨髄炎を正しく診断して治療を開始しないと、その後の身体機能、障害の程度、治療費、死亡リスクに決定的な影響を与える。(4)そこで、脊髄損傷後にできる褥瘡に合併する骨髄炎の診断にMRIを用いるのは有用か考察してみた。
Huangらの調査(5)では、44人の脊髄損傷後麻痺のある患者に、骨盤部/腰骨部のMRI画像検査を行った。その骨髄炎の画像診断結果と、外科的デブリードマン後の検体を組織学/微生物学的に骨髄炎と診断した結果とを比較している。その結果、その正確性は97%で、MRIによる診断は感度98%、特異度89%となった。
一方で、Larsonらの調査(6)では、Stage Ⅳの褥瘡がある患者44人にMRIを含む複数の放射画像検査を行った。それを診療記録なしに放射線科医1人に読ませた結果と、外科的デブリードマン後の生検からの骨髄炎診断結果とを比較している。その結果、画像所見のみからの診断は、どれか1つでも陽性となる感度61%、どれか1つでも陰性となる特異度69%となった。
MRIを含む画像検査の有用性について、このように真逆の研究結果が得られた。その理由として、臨床所見などから骨髄炎を強く疑わせる情報が一切得られない場合、MRI検査を行っても正確な診断に繋がらないことが考えられる。
このことから、脊髄損傷後の患者さんに骨や筋肉の露出を伴う褥瘡があっても、すぐにMRI検査を行うのではなく、骨髄炎を疑うような診察所見や血液検査所見があるかを確かめ、骨髄炎の検査前確率が高いと判断してからMRI検査を行うべきと考えられる。
参考文献
(1)
Cardenas DD, Hoffman JM, Kirshblum S, McKinley W.
Etiology and incidence of rehospitalization after traumatic spinal cord injury: a multicenter analysis. Arch Phys Med Rehabil 2004; 85:1757.
(2)
Sugarman B, Hawes S, Musher DM, et al.
Osteomyelitis beneath pressure sores. Arch Intern Med 1983; 143:683.
(3)
Darouiche RO, Landon GC, Klima M, et al.
Osteomyelitis associated with pressure sores. Arch Intern Med 1994; 154:753.
(4)
Harrison’s Principles of Internal Medicine 18ed 1073
(5)
Huang, Abbott B.; Schweitzer, Mark E.; Hume, Eric; Batte, W. Granville
Osteomyelitis of the Pelvis/Hips in Paralyzed Patients: Accuracy and Clinical Utility of MRI Journal of Computer Assisted Tomography: May/June 1998 - Volume 22 - Issue 3 - pp 437-443
(6)
Larson, David L. M.D.; Gilstrap, Jarom M.D.; Simonelic, Kevin B.A.; Carrera, Guillermo F. M.D.
Is There a Simple, Definitive, and Cost-Effective Way to Diagnose Osteomyelitis in the Pressure Ulcer Patient? Plastic & Reconstructive Surgery: February 2011 - Volume 127 - Issue 2 - pp 670-676
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