注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
深在性真菌症の診断におけるβ-D-グルカンの意義
アスペルギルスやカンジダによる深在性真菌症は、死亡率が高く早期診断と適切な治療が必要である。確定診断は病理組織学的検査と培養によって行われるが、検体を採取するのが困難な状況が多い。血液培養では感度が低く、結果が出るまで時間を要し1)、治療開始が遅れる原因となる。β-D-グルカンは、アスペルギルス、カンジダなどの病原真菌細胞壁の主要成分であり、迅速に測定結果が得られ、感度がより高いとされる。
ある病院で、死亡前2週間以内にβ-Dグルカンが測定されて剖検が行われた症例を集めた研究2)で、456例中、54例(11.8%)で剖検により深在性真菌症が認められた。54例の患者のうち、28人が白血病、7人が悪性リンパ腫、6人が固形癌、6人が自己免疫疾患だった。この54例中48例で血液培養試験が施行されていた。β-D-グルカン測定は、真菌症に対して、カットオフ 30 pg/mLで感度95.1%(95% CI, 83%–99%)、特異度85.7%、カットオフ60 pg/mLで感度85.4%(95% CI, 71%–94%)、特異度95.4%、カットオフ 80 pg/mL感度78.0%(95% CI, 62%–89%)、特異度98.4%であった。一方、血液培養での感度は8.3%(95% CI, 2%–20%)に留まった。血液培養よりもβ-Dグルカン測定の方が感度に優れると共に、ある程度の特異度は担保されていると言える。
偽陽性に関しては、セルロース素材の透析膜、グロブリン製剤、多発性骨髄腫・肝硬変に伴う高γグロブリン血症、Alcaligenes faecalisなどによる敗血症、手術などで創部被覆に使用するガーゼ繊維のβ-D-グルカンの血中への遊離などが原因となることがある1)。例として、ある外科ICUで検討された研究3)によると、術後3日以内はβ-D-グルカンの偽陽性が25%を占め、全体の73%の検体で術後3日目に測定したβ-D-グルカン値は3日目以降に測定した値より高い値をしめすことが報告されている。
以上より、深在性真菌症が疑われる患者において、血液培養陰性でもβ-D-グルカン陽性であればエンピリックに抗真菌薬を開始する根拠となり得る。しかし、β-D-グルカンの測定では特異度の問題は残り、真菌感染症以外の様々な素因により偽陽性があることに注意する必要がある。
<参考文献>
- 竹末芳生、三鴨廣繋 侵襲性カンジダ症 医療ジャーナル社
- Taminori Obayashi, Kumiko Negishi, et al. ; Reappraisal of the Serum (1r3)-b-D-Glucan Assay for the Diagnosis of Invasive Fungal Infections—A Study Based on Autopsy Cases from 6 Years ; Clinical Infectious Diseases 2008; 46:1864–70
- John F. Mohr, Charles Sims, et al. ; Prospective Survey of (133)-_-D-Glucan and Its Relationship to Invasive Candidiasis in the Surgical Intensive Care Unit Setting ; JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, Jan. 2011, p. 58–61
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