注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核性関節炎の診断における感度の高い検査とは
関節炎を来す感染症には一般細菌や真菌による化膿性関節炎の他にライム病やWhipple病、ブルセラ症、結核菌による結核性関節炎などがある。結核性関節炎は結核感染症のうち、肺外結核の約10~11%、結核全体の1~3%とされ、発展途上国に多くみられる他、HIV感染症の有病率の増加や免疫抑制剤の使用に伴い結核性関節炎の発症も増加することがわかっている(※1)。結核性関節炎は股関節や膝関節に好発して腫脹や発熱といった臨床症状を示し、約半数では肺結核の症状を認めない。また、診断までにかかる期間は約2ヶ月から長いもので12年と慢性的な経過をたどることが多く(※2)、診断が遅れれば骨破壊が生じるため、より早く正確な診断が必要とされる。
結核性関節炎の診断には原則として滑膜生検によって得られた生検標本に対する組織学的検査と培養検査を行うのが望ましいとされている(※3)。滑膜生検は直視下または関節鏡下で行われるため、関節液を採取するための関節穿刺よりも侵襲性は高い。では、滑膜の代わりに関節液を検体として組織学的検査や培養検査を行ってはいけないのだろうか。また、一般的に培養検査は結果が出るまで4~6週間待たなければならないとされているが、早く結果が得られる組織学的検査だけで診断を行ってはいけないのだろうか。
Richard Wallaceらによると、滑膜生検標本に対して組織学的検査、あるいは培養検査を行った7つの試験結果に対してメタ解析を行った結果、組織学的検査の感度は94%(210/223)であり、培養検査の感度も94%(140/149)であった。組織学的検査は乾酪壊死の有無や抗酸菌塗沫試験などの結果を用いて判断している。一方、関節液における培養検査の感度は79%(91/115)であり、抗酸菌塗沫検査の感度は19%(14/74)という結果だった。(※2)
この結果から、滑膜は組織学的検査、培養検査共に関節液よりも感度の高い検体であるということが言える。また、滑膜の生検標本に対して行われる組織学的検査と培養検査の感度がほとんど同じであるため、この結果だけでどちらがより信頼できる試験なのかを決めることはできない。したがって結核性関節炎の疑いがある患者に対しては関節穿刺液の培養に加えて、滑膜生検で得られた検体の組織学的検査と培養検査を行うことで、より高い感度で診断を行うことが期待できる。
《参考文献》
(※1) Malaviya AN, Kotwal PP. Arthritis associated with tuberculosis. Best Pract Res Clin Rheumatol 2003;17:319-343
(※2) Wallace R, Cohen AS. Tuberculous arthritis: A report of two cases with review of biopsy and synovial fluid findings. Am J Med 1976;61::277-280.
(※3) UpToDate;“Skeletal tuberculosis”2015/1/26閲覧
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