注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
プロカルシトニンの細菌感染症の診断的意義
プロカルシトニン(PCT)はカルシトニンの前駆体であり、生理的条件下では甲状腺C細胞で合成される。1993年にAssicotらが重症細菌感染症では血中PCT濃度が著明に上昇し、敗血症を伴わない局所細菌感染やウイルス感染ではほとんど上昇しないことを初めて報告した(1)。
従来から多く用いられているバイオマーカーであるCRPとの違いは、反応時間はCRPが6時間程度、PCTが2-3時間であり、ピークはCRPが48時間程度、PCTが24時間程度であり、PCTの方がより急性期の早期診断に役立つとされている(2)。
黒田らは、2008年6月から2009年4月までの10ヶ月間に入院時に感染症を疑い血中PCTを測定した患者198例を対象とした調査を行った。感染症の診断には臨床症状、身体所見、画像、培養検査(喀痰、便、尿、血液)、血液および尿検査、マイコプラズマ迅速キット、尿中肺炎抗原を用いたところ、対象患者198例のうち180例が細菌感染症と診断された。感染症患者で有意にPCTは陽性であった。(感染症者vs非感染症者=91例(97%)vs3例(3%)、p=0.0036)PCT陰性例に血液培養陽性例はなくPCTが高値になるほど血液培養陽性例は多かった(3)。また別のstudyでは細菌感染と非感染疾患との鑑別においては、PCTとCRPとを比べると感度は88%vs75%、特異度は81%vs67%と報告されている(4)。なおこちらも、細菌感染の診断にはstudyによりやや違いは見られるものの血液および尿検査、胸部X線、培養検査(血液、喀痰、尿、便)、マイコプラズマ迅速キット、尿中肺炎抗原を用いている。
しかし一方でPCTは細菌感染以外でも上昇を認めることがあり、敗血症の診断には不十分であるとの指摘もある(5)。PCTは重症外傷、熱傷、手術などの高度侵襲時あるいは神経内分泌腫瘍、膵炎などの一部の疾患において比較的高値になるため、偽陽性の可能性もありうる。
PCTは細菌感染症に特異的且つ反応も早いことからCRPよりは優れているということは言えるかもしれないが、いずれにしても感度・特異度は十分であるとはいえない。敗血症の歳の抗菌薬初回投与の遅延は明らかに死亡率の上昇に影響することが知られており、PCT低値であるからと言って抗菌薬を投与しないというのは患者にはリスクとなり、PCT値単独で判断するのは極めて危険性が高い。PCT値は診断においてある程度有用ではあるが、偽陰性・偽陽性の可能性を含め完全ではないということを念頭に置かなければならない。十分な病歴聴取と診察、検査により感染片や起因菌を推定することが重要であり、PCTはそれらの総合的な判断の一つの手がかりとして用いるのがよいと考えられる。
<参考文献>
1)Assicot, M., et al. : High serum procalcitonin concentrations in patients with sepsis and infection. :Lancet 1993;341:515―518
2)臨床検査データブック LAB DATA 2013-2014 医学書院
3)プロカルシトニン値の臨床的意義に関する検討:感染症学雑誌 第84巻 第4号437-440
4)Simon L. et al. : Serum procalcitonin and C-reactive protein levels as markers of bacterial infection: a systematic review and meta-analysis.:Clin Infect Dis.2004;6:206-217
5)Tang BM., et al. : Accuracy of procalcitonin for sepsis diagnosis in critically ill patients: systematic review and meta-analysis. : Lancet Infect Dis. 2007 Ma Arch Intern Med. 2007;3;7(3):210-7.
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