注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSAによる化膿性骨髄炎と感染性心内膜炎に対する
バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンの違い
MRSA感染症に対しては様々な抗菌薬が考慮されるが、それぞれの薬剤において各臓器の移行性、臨床効果の有無や有害事象は大きく異なるので、それらを知った上で抗菌薬を選択しなくてはならない。
MRSAによる化膿性骨髄炎の治療では治療効果に関して、2005-2010年にダプトマイシンとバンコマイシンにより治療を受けたMRSAによる骨関節感染患者症例対照研究2)が行われた。患者の82%が骨髄炎を起こしており、18%は化膿性関節炎であった。臨床症状寛解と炎症マーカーの正常化、再手術がないことを治療成功とし、DAPとVCMを比較すると、3ヶ月地点では[15 (75%) vs. 27 (68%); p=0.8]6ヶ月地点では[14 (70 %) vs. 23 (58 %); p =0.5]とDAPの方がやや勝っていたが、有意差はなかった。このことからDAPの臨床効果がVCMに対し非劣勢であると示唆されるLZDに関しては、グラム陽性菌(MRSAを含み、38がメチシリン耐性菌)による整形外科的感染症患者(25人が慢性骨髄炎、23人が人工関節感染症)で耐性やアレルギーなどでVCMを使えない患者に対する症例研究7)において、LZDによる治療後、再燃したのは1人であった。しかし5人に血小板減少が見られ、3人は治療を続けられなかった。VCMやDAPとの直接臨床比較試験は見られなかったが、LZDは代替薬になりうると考えられる。
感染性心内膜炎の治療では第一選択薬としてDAPまたはVCMが挙げられる3)。右心系心内膜炎に対して、DAPと標準治療(VCM or 抗黄色ブドウ球菌ペニシリン)を比べたランダム化試験の報告(非劣勢試験)5)によると、DAPを受けた患者の44.2%、当時の標準治療を受けた患者の41.7%は臨床的に治療効果ありと見なされた。また、グラム陽性菌による左心系心内膜炎に対するDAPの臨床効果を調べる非ランダム化試験8)によるとブドウ球菌全体に関しては(メチシリン耐性が58%)、DAPのグループと標準治療のグループでは院内死亡率、6ヶ月死亡率、合併症などは同等であったが、血液培養陰性までの期間が有意に短かった。(1日vs. 5日;p=0.01) DAPはVCMと同様、MRSAによる感染性心内膜炎に対しては有効な抗菌薬であると言える。LZDに関しては十分な臨床試験が行われていないので、第一選択薬はあくまでDAPまたはVCM だが、LZDはVCM不耐容例や治療失敗例を対象とした検討で有効性を示しているという記載がガイドライン3)上にあり、選択肢として一考の価値があると思われる。
VCM、LZD、DAPの有害事象についても考えなくてはならない。感染性心内膜炎の治療中、DAPのグループと標準治療のグループを比べると[11% vs. 26.3%; p=0.004]とDAPは腎不全が少なかった5)。腎毒性発現リスクの高い患者においてVCMの使用時には腎機能の低下に留意する必要がある。また、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CK)の上昇はDAPのグループと標準治療のグループを比べると[6.7% vs. 0.9%; p=0.04]と、有意にDAPのグループの方が多かった。DAPは骨格筋に影響するため、週1以上のCKのモニタリングを行う。DAPのグループでは血小板減少症は起きていない。標準治療のグループでは5.9%血小板減少症が起きた。LZDでは有害事象として血小板減少、貧血などがあり、投与期間が14日間を超えると血小板減少の頻度が増加することが報告されている。3)
以上より、化膿性骨髄炎に対してはVCM、DAPが適しており、LZDも代替薬になりうるが有害事象に留意が必要である。感染性心内膜炎に対してはVCM、DAPが適しており、LZDは十分な臨床試験が行われておらず、現状では、代替薬にはならないが、VCM、DAPを使用できないときには選択肢として考慮しうる。
【参考文献】
1) Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases p.2268
2) S. Y. Liang & H. N. Khair & J. R. McDonald &H. M. Babcock & J. MarschallEur J Clin Microbiol Infect Dis (2014) 33:659–664DOI 10.1007/s10096-013-2001-y
3) Catherine Liu,Arnold Bayer,Sara E. Cosgrove,Robert S. Daum, Scott K. Fridkin, Rachel J. Gorwitz, Sheldon L. Kaplan, Adolf W. Karchmer,Donald P. Levine, Barbara E. Murray, Michael J. Rybak, DavidA. Talan,and Henry F. :ChambersClinical Practice Guidelines d CID 2011:52 (1 February)
4) Raad I, Hanna H, Jiang Y, et al:Agents Chemothr 2007;51:1656-60
5) Fowler VG Jr, Boucher HW, Corey GR, et al:N Engl J Med 2006; 355: 653-65
6) Infectious Diseases, St. Louis VA Medical Center-John Cochran Division, St. Louis College of Pharmacy, St. Louis, MO 63110, USA. [email protected] :2012 Jul;34(7):1521-7. doi: 10.1016/j.clinthera.2012.06.013. Epub 2012 Jun 29
7) Nalini Raoa,⁎, Cindy W. Hamiltonb : Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 59 (2007) 173–179
8) Manuela Carugati,a,d Arnold S. Bayer,b Josè M. Miró, et al : Antimicrob. Agents Chemother. 2013, 57(12):6213. DOI: 10.1128/AAC.01563-13. Published Ahead of Print 30 September 2013.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。