本稿は一読すると大人気ない負け惜しみの文章のような印象を与えるかもしれない。その印象は決して間違ってはいない。
こういう本を書きたかった。冗談抜きで、医学書の編集の人と話をするとき「アイデアは売るほどある」と言っている。頭の中に構想される企画にアウトプットが間に合わず、後手後手に回っている状態だ。なので「面白くてマニアックな医学論文をまとめた本を書けたらいいなあ」とも思っていた。信じてもらえようがもらえまいがそうなのだが、もはや手遅れだ。「ああ、それって倉原先生のパクリでしょ」と言われるに決まっているからだ。
ぼくのような感染症屋は⚪︎⚪︎を肛門に入れて、、、みたいなケースはわりと良く見る。だから、そういうのを文献的にまとめておけばけっこう面白いネタになるよなあ、とも思っている。本当にそうなのだ。「醤油を一升飲むと死ぬぞ」という俗説も、文献的に検証しておくべきなのだナトリウムが196になったら、そりゃ(ほっとけば)死ぬでしょうね。こういうのは文献的に検証しておけば、しておきさえすれば、、、
3秒ルールや5秒ルールのサルモネラの論文?もちろん読んでましたとも。でも、床にサルモネラが撒いてあるっていう時点で「そんな家やレストランあるか?」と思うべきなのだ。床というのはあまり細菌がなくて、落としてすぐ食べたからといってそんなに問題にはならないだろう、という研究もあり、この研究はイグノーベル賞を受賞している(http://news.aces.illinois.edu/news/if-you-drop-it-should-you-eat-it-scientists-weigh-5-second-rule)。ていうか、S. Typhimuriumはイタリックにしないのだ。S. entericaのserovarですからね。はいはい、大人気ないですよ。負け惜しみですよ。
コーラを飲んだら骨密度下がるって論文は読んでませんでしたが、野菜ジュースでは健康になれないってあの大西先生だって言ってるのだ。
地下鉄での死亡でどれくらい自殺が多いとか、ぼやっとみんな考えてみるものなのだ。それをちゃんと論文で検証するところが重要なのだ。そう、、、、やっておきさえすれば、、、と思うのである。笑いが免疫力を高めるかも、みたいな議論はよく外来でエイズ患者相手にやっている。ちゃんと検証しろよ、おれ。いや、論文検索はしたことありますよ、本当に、本当に。配偶者が入院すると死亡率が上がるみたいな論文も、読んでたよ。読んでましたとも。
本書は「実臨床には応用」できないと冒頭に断っている。デタラメもいいところだ。餅が原因でイレウスになるとかは、知っておくと救急外来で結構役立つ(食べ物腸閉塞はときどきみる)。英語で論文の抄読会をやるあれやこれやのヒントも、実臨床で役に立つに決まっているのだ。今日も学生たちに「この本は絶対読んだほうがいいよ」とおもわず言ってしまったじゃないか。読後、少しも気分が晴れない本書なのである。
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