医者には新しい知性が必要だと説いている。
たくさん勉強して「物知り」になるのが知性ではない。1950年の医学知識は倍加するのに50年かかっていた。後数年経つと医学知識は数ヶ月で倍加する時代になる。知っている知識よりも知らない知識の方が圧倒的に大きくなる。「これもあれも知っている」ではなく、「自分はここを知らない」という自覚、「無知の知」が大事である。
しかし、最近思うのだがこの「無知の知」の欠如は医者よりもむしろナースにおいて深刻である。
もともと看護の世界は封建的で行動主義的だ。そこには「なぜ」と問う態度はない。シニアの言われた通りに忠実に職務をこなすのが「よい」新人ナースだと言われる。「どうしてそうしなければいけないんですか」と質問するようなナースは「うるさいやつだ」と疎まれる。
医者の世界も相当封建的だが、近年では若手医師の躍動が著しく、この流れに変化の兆しが見られる。先輩医師が(知らないから)教えてくれない感染症診療、集中治療、臨床推論、EBMを学ぼうと一所懸命「どうしてだろう」ともがいている。勉強会は活況を呈している。が、同じようなムーブメントは看護の世界では希有である。若手が何かやろうとすると年寄りが圧力をかけるからである。
若手ナースが何かしようとするときは、必ず看護部に伺いをかけねばならない。それはよい。しかし、そのムーブメントを「どうぞ、どうぞ」と歓迎する上司は少数派に属する。なんだかんだと理由を付けて、「あなたにはまだ早い」といって活動、執筆、アウトプット、勉強の機会を阻害する。若手ナースが師長になったりすることは今も希有だし、ICNのような専門職も(自分の方が知識があるのに)必ず看護部にあれやこれやとお伺いを立てねばならない。これでは、いつまでたってもプロの専門職、スタンドアローンで「自分の頭で考える」ナースは育たない。
ぼくはあちこちの病院で「ICNにもっと決定権、権限を与えるべきだ」と主張している。病院長は概ね賛成してくれるが、常に反対するのは古株のナース、師長、看護部長たちである。「まだ若いのにそんな重圧をかけるのはかわいそうだ」とか、あたかも親切心からでているかのような言葉を使ってシュガーコーティングしているが、要するに「出る杭は打ちまくりますよ」と言っているのに過ぎない。管理圧力が強すぎるのである。
今も昔も看護の世界は「上に言われたことを忠実に正確にこなしなさい」である。そこにはwhyの質問はない。whyがないということは、自分が知らないという事実を自覚する習慣を持てない、ということだ。いわれた通りにやっていれば世界は完結するのだから。しかし、自分の世界が世界のすべてであってはならない。そういう状態を「井の中の蛙」というのではなかろうか。たくさん勉強をするナースであっても、自分の世界観から自由になれなければ、それは単に「でかい井戸の蛙」に過ぎない。
最近はナースも研究を、といって環境感染学会での発表や質的研究が増えているが、オリジナリティーの高い研究はほとんどない。ほとんどが「うちでも同じ研究をやりました」という他者のアイディアのコピペに過ぎない。STAP細胞みたいなやり方でなくたって、コピペはこの業界では普遍的なのだ。「うちの病院でサーベイランスやったらこうなりました」みたいな。これも自分の頭で考えられないナースの世界の弊害だ(まあ、これは医者にも同じ傾向は見られるけど)。
ナースの世界の硬直性、封建制に多くの医者は気づいている。しかし、それを進言し、改善を促す医者は少ない。まあ、医者の世界も問題ありありなので、「人のことがいえた面か」という側面もある。しかし、本当のところは、ナースの世界が治外法権なので「他人が口を出す」のはご法度な空気が醸造されているだけなのである。ここでも、でかい井戸があり、その壁は「進撃の巨人」の舞台よろしく高いのである。
でも、医療の世界が縦割りで分断されていてはいけない。ナースの世界の進歩なくして、医療はよくはなりはしない。大学病院含め、あらゆる壁はぶちこわすべきだ。もっと大きなピクチャーでものを考えるべきだ。「それは看護マターです」ではない。「それは医療のマター」なのだ。医療のマターに医者が口を出すのは当たり前だ。vice versa.
近年、ユマニチュードのように外からの黒船で既存の常識を揺るがすような動きも起きている。もっとナースも「外の世界」を知るべきだ。外国のようにやれ、と言っているのではない。それはそれで別の行動主義になってしまう。もっと自分の頭で考えるのだ。「なぜ、自分はそのような看護をするのか」、上司がいうからではなく、自分が考え納得するような形で考えるのだ。案外、井戸のなかの常識は考えてみると非常識なことは多いものだ。豊かな感性も、使っていないとすぐに錆び付いてしまうぞ。このままだとあなたの頭も空っぽになっちゃうぞ。ここがロドスだ、変わるなら、今だ。
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