注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「血液培養2セットのうち1セットのみ陽性であった場合の解釈」
血液培養は、血液中に病原微生物が存在するかどうかを確認し、病原微生物の種類とその抗菌薬への感受性を知ることができる、感染症診療において非常に重要な検査である。血液培養を採取するうえで、常に考慮すべき問題の一つに皮膚常在菌のコンタミネーションがあり、培養結果を解釈する際には、検出された菌が起因菌であるのか、あるいはコンタミネーションであるのかを判断しなくてはならない。一般的には、血液培養を2~3セット採取することが推奨されている2)。しかし、採取された2セットのうち1セットのみから菌が検出された場合、それが本当に起因菌であるかどうかの判断が必要となる。以下では、血液培養を2セット採取し、1セットのみが陽性である場合に、その結果をどう解釈すればよいかについて考察する。
Weinsteinらは、Duke University Medical Centerを含めた3施設で、1992年2月から1993年1月までの1年間に、血液培養が陽性となったことのある18歳以上の入院患者1267人から検出された1884の微生物について、その結果が臨床的に有意であったかどうかを報告している3)。陽性の培養検体は、感染症内科医によって、患者の病歴、身体所見、血液採取時の体温、白血球およびその他の細胞数、採取されたセット数のうちの陽性セット数、他の部位から採取した検体の培養結果、画像所見、病理組織学的所見、臨床経過、治療への反応性に基づいて、検出された菌が真の起因菌である場合、コンタミネーションである場合、および陽性結果が臨床的に有意であるか不明な場合、の3つに分類された。結果は検出された菌の種類によって大きく異なる。Staphylococcus aureusは、検出された204例のうち178例(87.2%)で真の起因菌であるとされた。Streptococcus pneumoniae、Klebsiella pneumoniae、Candida albicansは、検出された全例で、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosaは、それぞれ99.3%、96.4%の例で真の起因菌であると判断された。一方、coagulase-negative staphylococci(CNS)は、703例と最も多く検出されているものの、真の起因菌とされたのは87例(12.4%)に過ぎず、575例(81.9%)でコンタミネーションと判断された。Bacillus属、Corynebacterium属、Propionibacterium属についても、それぞれ91.7%、96.2%、100%の例でコンタミネーションと判断されている。またWeinsteinらは、Staphylococcus epidermidisが血液培養で検出された場合の、採取された培養セット数と陽性セット数、およびその結果が臨床的に有意であるかについても考察している。血液培養が2セット実施され、1セットのみからStaphylococcus epidermidisが検出されたのは136例であり、そのうち真の起因菌とされたのは3例(2.2%)、122例(94.8%)はコンタミネーションと判断された。血液培養が2セット実施され、2セットともからStaphylococcus epidermidisが検出されたのは30例であり、そのうちの18例(60.0%)で真の起因菌であると判断された。
採取された血液培養2セットのうち1セットのみから菌が検出された場合の解釈は、検出された菌の種類によって異なる。CNS、Bacillus属、Corynebacterium属、Propionibacterium属などが検出された場合は、コンタミネーションの可能性が高い。一方、Streptococcus pneumoniae、Klebsiella pneumoniae、Candida albicansなどが検出された場合は、コンタミネーションの可能性が低いと考えるべきである。
【参考文献】
1) 監修)青木眞 編集)岩田健太郎 大曲貴夫 名郷直樹 文光堂 臨床に直結する感染症診療のエビデンス P24-27
2) Gerald L. Mandell, John E. Bennett, Raphael Dolin. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th Edition: Churchill Livingstone,2010 : p237
3) Melvin P. Weinstein, Michael L. Towns, Seth M. Quartey, et al. The Clinical Significance of Positive Blood Cultures in the 1990s: A Prospective Comprehensive Evaluation of the Microbiology, Epidemiology, and Outcome of Bacteremia and Fungemia in Adults. Clin Infect Dis. (1997) 24 (4): 584-602
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