注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
成人MRSA菌血症に対する適切なバンコマイシンの投与期間
IDSAガイドラインには、非複雑性(感染性心内膜炎がない、埋め込み型の人工物がない、最初の血液培養陽性から治療開始後2-4日以降に施行された血液培養でMRSAが分離されない、適正な治療開始後72時間以内に解熱した、遠隔感染巣がない、の全てを満たす)のMRSA菌血症患者に対してはダプトマイシン、バンコマイシンを第一選択薬とし最低2週間投与する、複雑性の場合は長期投与が必要で感染症の程度に応じて治療期間は4~6週間、あるいはそれ以上の治療期間も推奨される(1)とある。しかしこれでは期間に関して曖昧なのでより具体的な投薬期間に関して以下に記す。
1、非複雑性MRSA菌血症に関して
患者111名における抗菌薬投与日数14日未満群38例と14日以上群73例を比較した前向き観察コホート研究によると治療失敗率と粗死亡率に有意差はないが再発率は14日未満群で有意に高かった(2)とある。よって再発を防ぐために最低2週間の投薬が必要といえる。
2、複雑性MRSA菌血症に関して
感染性心内膜炎などの遠隔転移巣の存在が疑われるので治療期間は非複雑性に比べて長期となる。感染性心内膜炎を併発している場合は患者の心臓弁が自己弁の場合は6週間、人工弁の場合は8週間のバンコマイシンの投与が推奨されている。骨髄炎を併発している場合は8週間が推奨されている。その他、合併症が診断されない場合に4週〜6週が推奨される(1)。いずれも経験的根拠でIDSAガイドラインに記されている。
結論
・ 非複雑性の場合は、2週間以上の治療期間が必要とのエビデンスはあるが具体的にどれくらいの期間なら十分なのかについてのデータは現在ない。
・ 複雑性の場合は、感染性心内膜症か骨髄炎を合併している場合はそれらの治療期間の方が長いためそちらに合わせ、そうでない場合には4〜6週間投薬する。ただしいずれも経験的に推奨されている期間である。
参考文献
(1) Management of Methicillin-ResistantStaphylococcus aureus Bacteremia
Clin Infect Dis. (2008) 46 Sara.E.Cosgrove and Vance.G.Fowler Jr
(2) Treatment duration for uncomplicated Staphylococcus aureus bacteremia to prevent relapse: analysis of a prospective observational cohort study.
Antimicrob Agents Chemother. (2013 Mar) Chong YP, Moon SM, Bang KM, Park HJ, Park SY, Kim MN, Park KH, Kim SH, Lee SO, Choi SH, Jeong JY, Woo JH, Kim YS.
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