注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
市中の蜂窩織炎の起因菌とエンピリック治療
蜂窩織炎とは擦過傷や潰瘍といった皮膚による外界への防御機構が破綻し病原微生物の侵入によって引き起こされる感染症である。局所の圧痛、腫脹、熱汗、紅斑がみられ、急速に悪化、拡大し倦怠感、悪寒、発熱などの全身症状生じるまで進展する。さらに血流、あるいはリンパ管循環を介して全身に播種する危険性がある注意すべき疾患であり迅速な対応が求められる。そこで今回は市中感染の蜂窩織炎の起因菌の割合を調べ、初期治療であるエンピリック治療の治療薬を検討した。市中の蜂窩織炎の起因菌はグラム陽性菌が多くその中でもS. aureus、beta-hemolytic streptcocciが2大起因菌であり、血液培養で分離された菌のうち3分の2がS. aureus、group A or G streptcocciで占められており、3分の1がH. infulenzae, P. multocida. Vibrio vulnificus等のグラム陰性菌であるとされる1)一方で、米国で11の施設で行われた18才以上の救急部に来院した化膿性病変を伴う軟部組織感染症患者422人を対象に行われた前向き研究では病変部からスワブで採取された検体のうち59%でMRSAが培養され、次いで17%でMSSAが分離培養され、あわせて76%が S. aureusが培養で陽性であったとする報告もある。2)また米国the Olive View-UCLA Medical Center救急部で治療された非化膿性で培養陰性であった蜂窩織炎患者179人を対象に行われた前向き研究では患者の73%で抗SAO抗体あるいは抗DNase-B抗体が陽性であったとする報告もある。3)これらは米国での報告であるが、日本でも旭中央病院を受診した蜂窩織炎50症例野中で血液培養が施行された40例のうち11例が培養陽性だった。そのうち6例がG群溶連菌、1例がA群溶連菌、1例がMSSAであり4)国内でも米国と同様に市中の蜂巣織炎ではグラム陽性菌、特にS. aureusとbeta-hemolytic streptcocciによる関与が極めて多いと推測される。さらに症状として化膿性病変(膿瘍、痂皮)を多く含む場合はS. aureusによる感染が示唆され、米国では市中の発症の痂皮や膿瘍を伴う蜂窩織炎で救急部にて治療された患者128人のうちMRSAが培養陽性であった割合が71%にのぼるとする報告もある。5)また日本の皮膚科感染症で分離されるMRSAは黄色ブドウ球菌の20から40%にものぼり6)、市中MRSAとして問題になっており市中感染の蜂窩織炎であってもMRSAが起因菌として十分ありえるといえる。以上のことからエンピリック治療薬としてはS. aureusとbeta-hemolytic streptococciをカバーするセファレキシン、セファドロキシルといったセフェム系やクリンダマイシン、マクロライド系抗菌薬で治療し、蜂窩織炎でも特に痂皮や膿がみられた場合には市中発症の患者であってもMRSAの関与を意識してバンコマイシン、リネゾリド、クリンダマイシン、ダプトマイシン、サルファ剤がエンピリック治療の選択肢として考えられるだろう。
参考文献
UpTodate :Cellulitis and erysipelas, Larry M Baddour, MD, FIDSA
抗菌薬マスター戦略 非問題解決型アプローチ 著Alan R. Hauser 監訳 岩田 健太郎(p239 section4E)
1)Gerald L. Mandell, John E. Bennett, Raphael Dolin, Plinciples and practice of infectious diseases p1296 PARTⅡ SECTION I Cellulitits,Necrotizing Fasciitis,and Subcutaneous Tissue Infections
2) N Engl J Med. 2006 Aug 17;355(7):666-74.
3)Medicine (Baltimore). 2010 Jul;89(4):217-26
4) 西日本皮膚科 [0386-9784] 清水 年:2013 巻:75 号:3 頁:280 CODEN:NNHIAN 出版社:日本皮膚科学会西部支部
5)J Emerg Med. 2010 Jun;38(5):563-6.
6)日皮会誌:120(1), 5-9, 2010 (平22)
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