注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
壊死性筋膜炎における大腸菌単独感染の頻度
壊死性筋膜炎 (Necrotizing Fasciitis : NF)は、3つの群に分類される。Type1 NFは、少なくとも1つの偏性嫌気性菌に、1つ以上の通性嫌気性菌が複合感染したものをいう。偏性嫌気性菌でよく見られるのはバクテロイデス属とペプトストレプトコッカス属である。通性嫌気性菌で見られるのはA群以外の連鎖球菌と、Escherichia coli 、エンテロバクターなどの腸内細菌科である。1) E. coliは、NFの組織培養の6.5%に見られる。2) 嫌気性菌の単独感染の報告はあるが、レアなケースである。Type2 NFは、A群連鎖球菌が単独、もしくは黄色ブドウ球菌などと複合感染するものをいう。これは毒素性ショック症候群を引き起こしうる。Type3 NFはVibrio vulnificusのような海に生息するグラム陰性桿菌によって引き起こされるものである。1)
単独感染NFの起炎菌は、グラム陽性菌が多いとされてきた。しかし近年、グラム陰性桿菌の単独感染の報告が増えてきており、E. coli 、クレブシエラ属、シュードモナス属などの単独感染例が報告されている。
単独感染について言及した報告は少なく、大規模の研究はないが、ある1施設の後ろ向き研究では、NFを発症した患者の内、15%にあたる45症例が単独感染によるNFと診断された。19症例がグラム陰性菌で、26症例がグラム陽性菌であった。グラム陰性菌の中ではE. coli (10例)が最も多く、グラム陽性菌の中ではStreptococcus pyogenes (10例)が最も多かった。患者背景で有意差はなかったが、免疫抑制もしくは糖尿病罹患をしている率はグラム陰性菌で多い傾向があった (89.5% vs 65.4%)。バイタルサインの数値や、敗血症性ショックに陥る割合で有意差が見られるものはなかった。しかし、30日以内の死亡率については、グラム陰性菌でやや高率という結果が得られている (42.1% vs 30.8%)。3)
これまであまり知られてこなかったが、グラム陰性菌の単独感染の報告も存在し、その中ではE. coliが多い。しかし、大腸菌感染が見られるNFにおける、大腸菌単独感染の割合は不明であった。NFは複合感染の割合が高く、偏性嫌気性菌の培養感度は低いこと、
さらに致死率が高い疾患であることから、治療に用いる抗菌薬のスペクトルを狭めて良いとは言えない。
引用文献
1)Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases p.1211
2)A.G.Angoules, et al: Necrotizing fasciitis of upper and lower limb: a systematic review. Injury 38(2007): S18-25
3)D. Yahav, et al: Monomicrobial necrotizing fasciitis in a single center: the emergence of Gram-negative bacteria as a common pathogen. International Journal of Infectious Diseases 28(2014) 13-16
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