注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
VAPの診断
VAP(ventilator-associated pneumonia)は挿管後48時間以上経過し、発熱、白血球数増加、膿性痰、低酸素血症、聴診時のcrackleなどを認めた場合に疑うが、Gold standardはなく、診断が困難な疾患でもある。診断するにあたり、胸部X線を撮影し、血液培養を行う。また、喀痰を塗抹・培養検査のために採取し、状況によっては気管支鏡により検体を採取する。
①胸部X線
剖検して少なくとも一つの組織で毛細血管と隣接する肺胞に多核白血球を認め、肺組織の培養により陽性を示したものをVAPとし、患者25人を対象とした後ろ向き研究では、胸部X線異常所見の感度は92%だが特異度は33%にすぎないとする報告がある1)。
②血液培養
血液培養に関しては、その感度は、BAL(bronchoalveolar lavage)陽性を根拠としてVAPと診断されたICU患者90人を対象とした前向き研究で24%にすぎないとする報告がある3)。
③喀痰培養
喀痰培養に関しては、定量培養を診断に用いるものがある。定量培養カットオフ値はおよそ気管吸引痰で105CFU/ml、BALで104CFU/ml、PSB(protected specimen branch)で103CFU/mlであるが、培養の感度・特異度は患者背景により変動し、下気道から得られた検体の分離菌が起炎菌とは限らないことを考慮する必要がある。またたとえ血液培養で微生物を検出しても肺以外の病変が源になっている可能性も考慮する必要がある。
ほかに、臨床スコア(体温、白血球数の増加、喀痰の様子+量の変化、胸部写真、PaO2/FiO2)と細菌スコア(グラム染色+培養結果)の合計でVAPと診断するCPIS(Clinical Pulmonary Infetion Score)もある2)が、組織所見や剖検所見と比較したCPIS>6の感度は77%、特異度は42%にすぎないとする報告もある1)。
以上をふまえるとVAPの診断についてはやはり十分な感度・特異度を持つ有用な方法はない。しかし、VAPで抗菌薬治療を受けているICU患者107人(うち33人がVAPと診断されてから抗菌薬を投与するまで24時間以上経過)を対象とした前向き研究で抗菌薬投与開始の24時間以上の遅れがオッズ比7.68で死亡の危険因子であるとする報告があり4)、早期にエンピリカルな抗菌薬を開始する必要がある。そのため、胸部X線上の新しい陰影に加え、発熱、白血球数、喀痰の悪化のうち2つ以上の該当により肺炎を疑う場合、塗抹検査やlocal factor(各施設で問題となることの多い菌とその感受性パターン)によりエンピリカルな抗菌薬を開始するガイドラインが提示されており5)、VAPについては臨床像全体から判断する必要があるものと考える。
<参考文献>
1) Thorax 1999;54:867-873 doi:10.1136/thx.54.10.867
2) Am Rev Respir Dis. 1991 May;143(5 Pt 1):1121-9.
3) Chest. 1999 Oct;116(4):1075-84.
4) Chest 122 : 262-268, 2002.
5) Am J Respir Crit Care Med. 2005 Feb 15 ; 171 (4) : 388-416
6) レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木眞 医学書院
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