注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ESBL産生菌の抗菌薬論争〜cefmetazoleの有効性〜
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase :ESBL)産生菌は、グラム陰性菌が取りうる薬剤耐性菌の一種で、院内での蔓延は大きな問題となっており、治療においては適切な抗菌薬の選択が重要である。まず、β-ラクタマーゼはβ-ラクタム薬を加水分解する酵素のことを言う。これは、基質特異性、アミノ酸配列、中心物質に基づいたAmbler分類によりclassA~Dに分けられる。ESBLは、このβラクタマーゼのうち、ペニシリンのみを分解するclassAに属する酵素が更に変異することによって、第3世代セファロスポリン薬やモノバクタム薬をも分解し、主にEscherichia coli 、Klebsiella spp. 、Proteus mirabilisで見られる。これらは、細胞質に耐性遺伝子が存在するため、プラスミド性に細菌間で形質伝播しやすい。1)
ESBL産生菌は、上記に述べた抗菌薬には耐性を示すが、セファマイシン系、latamoxefなどのオキサセフェム系、カルバペネム系には感受性があり、アミノグリコシド系やST合剤、fosfomycinにも感受性があることがある。現在、カルバペネム薬は有効性が確立されており、基本的に第一選択として推奨されている。2)その他、ESBL産生E.coliの菌血症で、β-ラクタマーゼ阻害剤配合薬の有用性、軽症の尿路感染症で、治療上においてもアミノグリコシド薬やfosfomycinの有用性などが報告されている。
cefmetazole等のcephamycinはin vitroで感受性があっても、治療の途中で外膜ポーリン欠損によるcephamycin耐性を惹起しやすく、AmpC型β-ラクタマーゼを誘導することがあり3)、cefmetazoleの治療効果を評価した報告は近年までなされておらず、治療薬としての推奨が困難とされてきた。cefmetazoleが有用とされれば、カルバペネム薬をむやみに使用して、耐性菌が蔓延することも防止できる。治療効果があるとの意見として、ESBL腸内細菌の尿路感染による腎盂腎炎において、cefmetazoleとカルバペネム薬を比較した、Doi A.らによる報告がある。cefmetazoleで治療した患者10人とカルバペネム薬で治療した患者12人の、それぞれ治療後4週間後の結果を比較している。結果、臨床的治癒率(9/10,12/12,p=0.46)、細菌学的治癒率(5/7,6/7,p=1.00)、薬物副作用の生じる確率(2/10,2/12,p=1.00)に有意差はなかった。4)現在、cefmetazoleの効果についての発表は今回の報告のみであり、課題は多い。cefmetazoleは主に日本で使用されていること(アメリカではcefotetanなど)、ESBL産生菌の種類も国や地域間での差が多いことから、worldwideな研究が行われることが困難であり、また、今回のような後ろ向き研究であればバイアスがかかってしまう。cefmetazoleがカルバペネム薬と比較して治療効果や有害事象に有意差があったという報告や、耐性菌が多く出現した等の対立意見もなされていない。そのため、どの程度の軽症例に有効か、CTX-M型、TEM型などの種類で差があるかなど、今後、大規模な前向き試験を行い、解明していくべきである。
抗菌薬の基本的な考え方はde-escalationが主流となっているが、カルバペネム薬の濫用により多くの耐性菌が蔓延したことを教訓に、耐性菌に対しては、狭域抗菌薬の使用が望ましい。カルバペネム薬の代替として、今回のcefmetazoleだけでなく、今までに有用性が報告されてきた例でも、未だ物議をかもしている。新たな耐性菌の出現に注意しながら、研究が今後、進むことに期待したい。また、感染が疑われた場合、必ず培養して、使用する抗菌薬のスペクトラムを慎重に考えることが重要であると、文献からのみならず、今回の実習で、実際の医療の現場からも学んだ。
<参考文献>
1)レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木眞 p.122~123
2)Paterson DL.: Recommendation for treatment of severe infections caused by Enterobacteriaceae producing extended-spectrum β-lactamases(ESBLs): Clin Microbiol Infect: 2000: 6: 460-63
3)Johann D D Pitout Kevin B Laupland: Extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacteriaceae:an emerging public-health concern: Lancet infect Dis 2008: 8: 159-66
4)Doi A. Shimada T. Harada S. et al: The efficacy of cefmetazole against pyelonephiritis caused by extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae.: Int J Infect Dis 2013: 17: e159-163
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。