注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
無症候性細菌尿を発見したときの対応
細菌尿の一部には全く症状のない「無症候性細菌尿」という概念があり、尿に細菌を証明しても、臨床的に意義があるとは限らない1)。無症候性細菌尿の診断は臨床経過及び尿培養の結果に基づいて下される。女性の検体では105 cfu/ml以上の同じ細菌が2回以上連続して検出された場合、男性の検体では105 cfu/ml以上の細菌が検出された場合、尿道カテーテルからの検体では男女ともに102 cfu/ml以上の細菌が検出された場合、細菌尿とし、かつ尿路感染症状が見られない場合に無症候性細菌尿と診断する2)。
50歳未満では女性が男性の30倍ほどの頻度で無症候性細菌尿がみられる。高齢者では男女を問わず頻度は高く約20%でみられる。また、カテーテル留置は1日あたり3%の細菌尿のリスクとなる3)。
では、無症候性細菌尿を見つけた場合、どのように対応すればいいのだろうか。
高齢者の無症候性細菌尿を治療すべきなのか調査するため、358名の歩行可能な無症候性細菌尿のある女性に対し、抗生物質で治療した場合と治療しなかった場合とで死亡率を比較する5年間の前向きランダム臨床試験が行われた。治療を受けた166人の死亡率(18.1%)は、治療しなかった192人の死亡率(20.3%)に匹敵した(相対比0.92,信頼区間0.50~1.47)。細菌尿の治癒率は、治療群で82.9%、無治療群で15.6%であった4)。よって、無症候性細菌尿の治療は死亡率を下げないということが考えられる。
同じく無症候性細菌尿のリスクとされている脊髄損傷患者、糖尿病の女性、尿道カテーテル留置患者は、従来治療対象となっていたが、いくつかの前向きのランダム臨床試験で、抗菌薬投与は一時的に菌消失が認められるものの、副作用や耐性菌の発現が誘起され、有益性は明らかではない。よって、症状がない場合、これらの患者において、スクリーニングおよび治療は推奨されない2)。
あるコホート研究によると、妊娠中に無症候性細菌尿がある場合、ない場合と比べて、低出生体重児の頻度は1.5倍、早産の頻度は2倍となる。しかし抗菌薬で治療すると、低出生体重児・早産のリスクは下がる。また、妊娠に伴う無症候性細菌尿はその後の子宮内感染症のリスクである5)。よって、治療が必要であり、そのためにはスクリーニングが重要であるといえる。
また、192人の経尿道的前立腺切除術(TUR-P)施行予定の患者において、98名には術前にcefotaximeを短期間投与し、94名には抗生物質を投与しないという、前向きランダム研究が行われた。cefotaxime 群では術前に43%、術後6週間後に18%の細菌尿が見つかったのに対し、コントロール群では40%と42%であった(p<0.01)。また、cefotaxime群では術後感染症をみとめなかったのに対し、コントロール群では1名が敗血症を発症し、7名の患者が上部尿路感染症を発症し、コントロール群ではcefotaxime群と比べると、有害事象が有意に多かった(p<0.01)。よって、TUR-P施行前の無症候性細菌尿の治療は有効であるといえる6)。
細菌尿をみつけた場合、症状がなければ、妊婦とTUR-P施行前の患者以外は、基本的に治療を行うべきではない。もし症状があれば、尿路感染症なのか他の部位の感染症なのか十分考える必要がある。
[参考文献]
1)青木眞 医学書院 レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 pp.550-571
2)Lindsay E. Nicolle:Asymptomatic bacteriuria: review and discussion of the IDSA guidelines; International Journal of Antimicrobial Agents Volume 28, Supplement 1, August 2006, Pages 42–48
3)上田剛士 医学書院 ジェネラリストのための内科診断リファレンス pp.364-365
4)E. Abrutyn, J. Mossey, J.A. Berlin, et al:Does asymptomatic bacteriuria predict mortality and does antimicrobial treatment reduce mortality in elderly ambulatory women?;Ann Intern Med, 120 (1994), pp. 827–833
5)R. Romero,E. Oyarzun,M. Mazor et al:Meta-analysis of the relationship between asymptomatic bacteriuria and preterm delivery/low birth weight;Obstet Gynecol,73 (1989), pp. 576–582
6)M. Grabe, A. Forsgren, S. Hellsten:The effect of a short antibiotic course in transurethral prostatic resection. A controlled comparison with methenamine:Scand J Urol Nephrol, 18 (1984), pp. 37–42注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
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