注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
気腫性腎盂腎炎の治療
気腫性腎盂腎炎は腎実質や腎周囲に感染した細菌がCO2を産生、貯留させる壊死性尿路感染症で、糖尿病などの免疫能低下患者または尿路閉塞を基礎疾患に持つ患者で発症することが多い。起炎菌としてはEscherichia coli(69%)やKlebsiella pneumonia(29%)といった腸内細菌が多いとされている。治療としては、抗菌薬単独治療(抗菌薬は複雑性尿路感染症の治療に準ずる。)、経皮的ドレナージ(PCD:percutaneous catheter drainage)、腎摘出である。現在推奨されている治療方針は以下の通りにCTで分類して決定する。
クラス1 |
ガスが尿路だけにとどまるもの |
クラス2 |
ガスが腎実質まで |
クラス3A |
ガス膿瘍の広がりが腎筋膜内まで |
クラス3B |
ガスや膿瘍の広がりが腎筋膜をこえている |
クラス4 |
両腎炎症や単腎しかない症例 |
Huangらの報告で治療結果としてはクラス1、2の16例の患者では、死亡は1例のみ(抗菌薬単独)で、経皮的ドレナージを行った全例で良好な経過をたどった。クラス3の28例の患者では、6例が死亡(21%)、11例が経皮的ドレナージで改善不良であった。そのうち7例が開腹腎摘出術を施行され、6例が生存した。クラス4では4例中2例が死亡し、3例の経皮的ドレナージは成功しなかったとのことである。また、クラス3,4の中でも血小板減少、腎機能障害、意識障害、ショックのうち2つ以上に当てはまる場合は、1つ以下の症例に比べて、PCDで治療が上手くいかない可能性が有意に高い(92%vs15%,p<0.001)2)。
これらの結果をうけて、クラス1で膿瘍や尿路閉塞が無いものは抗菌薬単独投与が、それ以外のクラス1のものとクラス2では抗菌薬+経皮的ドレナージが推奨されている。クラス3では前述のリスクファクター(血小板減少、腎機能障害、意識障害、ショック)に応じて治療方針を決める必要がある。リスクが1つ以下の場合は抗菌薬とPCDで改善する可能性があるが、2つ以上のリスクがある場合は積極的な腎摘出術を考慮する必要がある。クラス4では抗菌薬投与と両側のPCDを行うが、改善がない場合は腎摘出術を行う必要がある。腎摘出術に関しては、Kapoorらによって報告されているが、早期(発症から1週間以内)から腎摘出術を行った7例の患者のうち3例が死亡しているが、発症初期はPCDで治療を行い、改善がない場合に腎摘出術を行った患者では4例とも生存している。また、腎摘出術を行っていない群でも24例のうち2例しか死亡しておらず、ほかの22例では腎臓を残せたということもあり、いつ行うべきであるのかということと早期の腎摘出術が必要であるのかどうかの判断は難しい3)。またそれぞれのケースで尿路において閉塞をきたしている際にはその閉塞に対しての治療も必要である。
現時点では治療に関するガイドラインはなく、今回挙げた報告も症例数が少なく、治療方法をどうすればいいのかはっきりと言及することはできない。患者の状態を正確に把握して、それぞれの患者に合わせて外科的治療の適応などを適切に判断する必要があると考えられる。
【参考文献】
1)UpToDate:Emphysematous urinary tract infections 2014.9/12閲覧
2) Huang JJ, Emphysematous pyelonephritis: clinicoradiological classification, management, prognosis, and pathogenesis. Arch Intern Med. 2000;160(6):797.
3) Kapoor R, Predictive factors for mortality and need for nephrectomy in patients with emphysematous pyelonephritis, BJU Int. 2010;105(7):986.
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