注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
脳膿瘍の原因微生物
脳膿瘍は脳実質に感染が起こり、脳組織内の炎症と貯留した膿によって脳が圧迫、占拠された状態をいう。脳膿瘍は様々な感染症や外傷、外科手術に続発して起こり、脳周辺から直接的に広がるものと遠隔の感染巣から血行性に生じるものがある。一般的には脳周辺からの直接浸潤によるものは単一の感染巣を、血行性に生じたものは複数の巣を作ることが多い。これらの成因・病態により原因微生物もある程度規定される。微生物の脳周辺からの直接的な浸潤を引き起こす疾患として代表的なものは、亜急性及び慢性の中耳炎・乳様突起炎、篩骨洞及び前頭洞の副鼻腔炎、歯科領域の感染である。それぞれ以下のような原因微生物が考えられる。
素因疾患・危険因子 |
主な原因微生物 |
中耳炎・乳様突起炎 |
Enterobacteriaceae, Streptococcus spp, Pseudomonas aeruginosa, Bacteroides spp |
副鼻腔炎 |
Streptococcus spp (especially S. milleri), Haemophilus spp, Bacteroides spp, Fusobacterium spp, Staphylococcus aureus |
歯科領域の化膿 |
Streptococcus spp, Bacteroides spp, Prevotella spp, Fusobacterium spp, Haemophilus spp |
貫通性頭蓋外傷 、 脳外科手術 |
Staphylococcus aureus, Enterobacter spp, Clostridium spp, Pseudomonas aeruginosa, Streptococcus spp |
一方、遠隔の感染巣(肺、心内膜、尿路)から血行性に生じた脳膿瘍の場合に考えられる原因微生物は以下の通りである。
遠隔感染巣・素因疾患 |
主な原因微生物 |
肺膿瘍、膿胸、気管支拡張症 |
Streptococcus spp, Fusobacterium spp, Actinomyces spp |
尿路感染症 |
Pseudomonas aeruginosa, Enterobacter spp |
感染性心内膜炎 |
Viridans streptococci, S. aureus |
また免疫不全状態(免疫抑制剤使用、AIDS、好中球減少など)は本疾患のリスクファクターであり、このような患者では真菌、原虫も含め幅広い微生物が脳膿瘍の原因となりうる。
危険因子・素因疾患 |
主な原因微生物 |
好中球減少 |
Aerobic gram-negative bacilli, Aspergillus spp, Mucorales, Candida spp, Scedosporium spp. |
HIV・AIDS |
Toxoplasma gondii,Cryptococcus neoformans,Nocardia spp,Candida spp,Listeria monocytogenes,Mycobacteria spp |
移植患者 |
Aspergillus spp, Candida spp, Mucorales, Nocardia spp, Toxoplasma gondii |
脳膿瘍が疑われた場合、以上のように患者の病態から進入経路及び原因微生物を推察し、適切な培養・検査を行った上で抗生物質を選択し治療をしていく必要がある。
参考文献)
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7版 (2009)Churchill Livingstone
・青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 医学書院
・up to date: Pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis of brain abscess(2014/7/29 access)
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