注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
再発性急性胆管炎の予防における抗菌薬の役割について
急性胆管炎は結石や腫瘍などにより胆汁のうっ滞が生じ、細菌が感染することで発症する。
起炎菌は、好気性では大腸菌やクレブシエラ属、エンテロコッカス属などが高頻度で分離され、次いでストレプトコッカス属やシュードモナス属などがしばしば分離される。嫌気性では、クロストリジウム属やバクテロイデス属がしばしば分離されるが、多くは好気性菌との複合感染であるとの報告がある1)。診断において、有名なCharcot3徴は特異度では優れているが、感度は50~70%と臨床現場でのrule outには不十分なので、感染・胆道閉塞、胆汁のうっ滞を証明できる血液検査所見と画像所見を併用することが提唱されている。治療は原則としてうっ滞を解除するための胆道ドレナージ術の施行を前提に抗菌薬の投与が行われるが、抗菌薬のみで軽快する症例も存在する2)。選択すべき抗菌薬は、想定される起炎菌、胆汁移行性、胆管炎の重症度、胆道閉塞の有無、その患者の過去の投薬歴、その施設の起炎菌検出状況などから考慮する2)。
悪性腫瘍などで胆道にステントを留置している患者には、急性胆管炎の再発が多くみられる。外科的アプローチでは、Hui CKらの報告によると、胆嚢摘出術で胆管炎の再発を予防することはできないが(p=0.9)、乳頭切開術は再発の頻度を下げる(p=0.001)と報告されている3)。
外科手術なしに内科的に抗菌薬を投与することで急性胆管炎を予防することはできないだろうか。
これに関して、シプロフロキサシン内服がステント留置患者におけるステント閉塞や胆管炎を防ぐか否かという問題を研究報告したGabriel Chanらの論文を検討する4)。これはカナダの多施設で、悪性腫瘍による黄疸を呈し、ポリエチレンステントを留置された94人の患者を対象に行われた二重盲検ランダム化比較試験である。そのうち44人がシプロフロキサシンで治療を受け、残りの50人はプラセボの内服をした。結果は、この200日の研究の中でステントの閉塞が起こったのは、シプロフロキサシンが投与された群では14人(33%)であったのに対してプラセボ群では23人(49%)であり有意差はなく(p=0.115)、生存期間中央値にも差は認められなかった(p=0.803)。一方で、胆管炎が起こったのはプラセボ群の21人(42%)に対してシプロフロキサシン内服群では10人(23%)と有意差が認められた(p=0.047)。また、一ヵ月後にSF-36で測定したQOLにおいても、シプロフロキサシン群の方が結果は良いといえた(p=0.03)。
Gabriel Chanらの研究で経口フルオロキノロン系の内服が胆管炎の発症を予防できる可能性が示唆された。他にST合剤βラクタムとβラクタマーゼ阻害薬の使用が予防投与として推奨されている5)ので、再発を繰り返す可能性のある患者に対して予防的に抗菌薬を投与することが有効だと考える。
【参考文献】
1) 監修)青木眞 編集)岩田健太郎 大曲貴夫 名郷直樹 文光堂 臨床に直結する感染症診療のエビデンス p176-178
2) 急性胆道炎の診療ガイドライン作成出版委員会 医学図書出版株式会社 急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン p69-88
3)Hui CK et.al Role of cholecystectomy in preventing recurrent cholangitis.Gastrointest Endosc. 2002 Jul;56(1):55-60.
4)Gabriel Chan et al. The Role of Ciprofloxacin in prolong Polyethylene Biliary Stent Patency: A MultiCenter, Double-Blinded Effectiveness Study.
Journalof Gastrointestinal Surgery 2005;9:481-488
5) Sven J. van den Hazel, et al. Role of Antibiotics in the Treatment and Prevention of Acute and Recurrent Cholangitis Clinical Infectious Diseases 1994;19:279-86
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