注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
二次性腹膜炎に対するエンピリック治療
[二次性腹膜炎とは] 二次性腹膜炎とは腸管の穿孔などにより腸管内の常在菌が腹腔内に感染して生じた腹膜炎である。治療として原因疾患に対する処置としての外科的治療に加えて、抗菌薬の早期投与が必要になる。[1]
[起炎菌] 市中で感染した複雑性腹腔内感染症の起因菌は次のように大きく三群に分類できる。[2] (数値は調査に加わった複雑性腹腔内感染症患者のうちその菌が同定された患者の割合を示す。)
•グラム陰性桿菌(大腸菌71%、クレブシエラ属14%、緑膿菌14%)
•嫌気性菌(Bacteroides fragilis 35%、他のバクテロイデス属71%、
クロストリジウム属29%、ペプトストレプトコッカス属17%、真正細菌17%)
•グラム陽性球菌(ストレプトコッカス属38%、エンテロコッカス•フェカリーリス12%)
ここで注意すべき点は培養で表現される細菌と治療すべき細菌は必ずしも一致しないという点である。
例えば嫌気性菌は培養結果に表現されないことが多いので、培養結果に関わらず嫌気性菌は治療対象にすべきである。逆に腸球菌は培養に現れていても、グラム陰性桿菌や嫌気性菌といった主たる起炎菌を治療すれば相乗的に病原性を発揮することができなくなるとされているため、腸球菌を治療対象にする必要はないとされている。したがってグラム陰性桿菌と嫌気性菌がカバーされていればエンピリックな治療として十分であることが多い。[3]
[処方例] 抗菌薬の処方は市中感染症であるのか院内感染症であるのかで区別する必要がある。市中感染であれば起炎菌はエンピリカルに予想でき(感受性のよいグラム陰性桿菌と嫌気性菌)、使用抗菌薬もセファマイシン系のmonotherapyでよい場合が多いが、院内感染症であれば起炎菌であるグラム陰性桿菌はより耐性であり、またその感受性が施設ごとに異なるからである。院内感染症であれば状況によりアミノグリコシド系を含む複数の抗菌薬の使用が必要になる。(アミノグリコシド系抗菌薬は、それのみに感受性がある多剤耐性菌が菌名•感受性パターンとともに同定されたときには有用となる)以下処方例である。
<市中感染症>①セフメタゾール②アンピシリン•スルバクタム③タゾバクタム•ピペラシン④セフトリアキソンとクリンダマイシン⑤非常に重症の場合、緑膿菌のカバーする必要がありアズレオナムにメトロニダゾールを加える
<院内感染/緑膿菌が検出されていない場合>
①セフトリアキソンとクリンダマイシン②タゾバクタム•ピペラシン
<院内感染/緑膿菌が検出されている場合、またはカバーする必要がある場合>
①クリンダマイシンとセフェピム②クリンダマイシンとシプロフロキサシン
治療期間は合併症がない限り4−7日間投与する。[4]
[1]青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル、医学書院、p712-713、二次性腹膜炎
[2] Solomkin JS, Yellin AE, Rotstein OD, et al. Ertapenem versus pipera-cillin/tazobactam in the treatment of complicated intraabdominal infections: results of a doubleblind, randomized comparative phase III trial. Ann Surg 2003;237:235-45
[3]青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル、医学書院、p712-713、二次性腹膜炎
[4] Diagnosis and Management of Complicated Intra-abdominal Infection in Adults and Children: Guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America
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