注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
経食道心エコーの合併症
1980年代前半の導入以降、経食道心エコー(TEE)は大動脈解離・感染性心内膜炎の診断、塞栓源・大動脈プラーク・卵円孔の同定に大きな役割を果たしてきた1)。加えて、TEEは比較的安全で非侵襲的な手法だとされる。しかしながら、エコープローブの挿入や操作は外傷を与え得る。以下の合併症が報告されている2)。
歯の傷(0.1%) |
嚥下困難(1.8%) |
気道閉塞(1%-5.5%) |
口唇の傷(13%) |
気管チューブの誤った位置(0.03%) |
圧迫障害(0.6%) |
嗄声(12%) |
気管支痙攣(0.06%) |
不整脈(0.3%) |
咽頭の不快感(5%) |
喉頭痙攣(0.14%) |
うっ血性心不全(0.05%) |
嚥下痛(0.1%) |
不慮の抜管(0.5%) |
穿孔(0.01%) |
咽頭の小出血(0.01%) |
プローブの気管挿管(0.02%) |
大出血(0.03%) |
また、TEE実施前に行われる喉頭麻酔に用いられるベンゾカインやその関連薬物は、メトヘモグロビン血症を稀に引き起こす。TEEにおいて発生率は0.07%とされており、チアノーゼを引き起こし、致死的になり得る3)。メトヘモグロビン血症において、動脈血酸素分圧が正常値を示すことに注意が必要である。TEEの実施前に、全ての患者に対して合併症を増加させる下記の因子について身体診察を行い、下記の因子を持つ患者には、TEE前に気管挿管、内視鏡、バリウム造影の考慮、食道の位置の同定を行うべきである3)。
精神状態の変化、非協力的な患者 |
ツェンケル憩室 |
弱い心肺機能 |
嚥下痛、嚥下障害の既往 |
食道狭窄、悪性腫瘍 |
可動性低下を伴う頚椎関節炎 |
食道の外科的な偏移 |
重症血小板減少症(5万/μL未満) |
Kallmeyerらの研究によると、TEE関連の死亡率は0%である4)。しかしながら、Lennonらの研究では、TEEの合併症は半数以上が術後24時間以降に現れており、他の研究において合併症のリスクを過小評価している可能性について言及している5)。
参考文献
1)Dan Longo et al Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th Edition P1843
2)Jan N. Hilberath, MD,et al Safety of Transesophageal Echocardiography J Am Soc Echocardiogr.2010 Nov;23(11):1115-27; quiz 1220-1. doi: 10.1016/j.echo.2010.08.013.
3)Warren J Manning, MD et alTransesophageal echocardiography: Indications, complications, and normal views UpToDate
4)Kallmeyer et al The safety of intraoperative transesophageal echocardiography: a case series of 7200 cardiac surgical patients. Anesth Analg 2001;92:1126-30.
5)Lennon MJ,et al Transesophageal echocardiography-related gastrointestinal complications in cardiac surgical patients. J Cardiothorac Vasc Anesth 2005;19:141-5.
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