注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
テーマ:無症候性細菌尿に対する治療適応
<無症候性細菌尿の診断>
無症候性細菌尿の診断は尿培養の結果に基づいて下される。培養検体はコンタミネーションが起こらないよう、細心の注意を払って採取しなければならない。診断基準は女性、男性、尿道カテーテルからの検体でそれぞれ異なっている。女性の検体では105CFU/ml以上の同じ細菌が2回以上連続して検出された場合、男性の検体では105CFU/ml以上の細菌が検出された場合、尿道カテーテルからの検体では男女ともに102CFU/ml以上の細菌が検出された場合、細菌尿とし、かつ尿路感染症時に見られる症状(発熱、背部痛、腰痛、排尿時痛、CVA叩打痛など)が見られない場合に無症候性細菌尿と診断する。基準がそれぞれ異なる理由として、若い健康な女性には一過性の細菌尿がよくみられること、直接排尿の場合一般的に男性の検体のほうが女性の検体よりもコンタミネーションが起こりにくいこと、カテーテルからの導尿検体の方が直接排尿検体よりもコンタミネーションが起こりにくく、より少ない細菌コロニー数でも膀胱における細菌の存在が示唆されることが挙げられる※1※2。
また膿尿は炎症の指標であり無症候性細菌尿でも頻繁に見られるが、腎結核やSTD、間質性腎炎などの非感染性疾患でも見られるため、膿尿自体は細菌尿の診断、また症候性か否かの鑑別に用いることはできない※3。
<無症候性細菌尿の治療適応>
基本的に無症候性細菌尿は有害とは言えず、ほとんど(99%)は治療を行わず自然治癒する※1。症候性UTI(尿路感染症)のリスクが高くなる場合でも治療によりUTIの頻度を減らすことは出来ず、また他の有害事象に関しても治療が有為的に予防や改善をもたらすことはない。よって閉経前の妊娠していない女性、糖尿病の女性、高齢者(施設入院、市中暮らしのいずれも)、尿道カテーテル留置の人、脊髄損傷のある人に対して細菌尿のスクリーニングおよび治療は勧められない※3。
しかし妊娠と泌尿器科関連の術前においては例外的に治療対象となる。妊娠初期に無症候性細菌尿がある場合、UTIのリスクは20~30倍も高く、早産や低出生体重児の頻度も高いが、抗菌薬で治療すると早産、低出生体重児のリスクや腎盂腎炎のリスクが下がるといった報告がある※4。またTUR-P(経尿道的前立腺切除術)や粘膜出血が起こりうる泌尿器科的手技を受ける患者の場合には菌血症や敗血症などの有害事象の危険性が高いが、これらは抗菌薬治療で予防できる。
<尿道カテーテル留置の人の場合>
あるコホート研究では1497例のカテーテル留置患者のうち235例でカテーテルによる細菌尿をきたしているが、90%は無症候性であり、2次性の血流感染を起こしたのは1例であった※5。尿道カテーテルによる細菌尿がある群ではそうでない群と比べて死亡率が3倍高いという報告があるが、因果関係は不明で抗菌薬治療は死亡率に影響せず、また治療後すぐに耐性の高い菌の再感染が起こる※6。よって上記のとおり尿道カテーテルが留置されている場合は、基本的に細菌尿の治療を行わず、発熱、背部痛、腰痛、排尿時痛、CVA叩打痛などの尿路感染症に特異的な症状が見られた場合に起因菌の同定と抗菌薬治療を行う。
【参考文献】
※1 青木眞 医学書院 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 pp570-571
※2 Approach to the adult with asymptomatic bacteriuria [Up to date]
http://www.uptodate.com/contents/approach-to-the-adult-with-asymptomatic-bacteriuria (2014/6/30参照)
※3 Nicolle LE, Bradley S, et al. Infectious Diseases Society of America Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Asymptomatic Bacteriuria in Adults, Clin Infect Dis.2005 Mar 1;40(5):643-54.
※4 Nicolle LE. Screening for asymptomatic bacteriuria in pregnancy. In: The Canadian Task Force on the Periodic Health Examination, editor. The Canadian guide to clinical preventive health care. Ottawa: Canada Communication Group; 1994. p. 100-6.
※5 Tambyah PA, Maki DGCatheter associated urinary tract infection is rarely symptomatic: a prospective study of 1497 catheterized patients. Arch Intern Med 2000;160:678-82.
※6 Platt R, Polk BI, Murdock B, Rosner B. Mortality associated with nosocomial urinary-tract infection. N Engl J Med 1982;307:637-42
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