注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
フィンゴリモド投与による感染症発生率への影響
- フィンゴリモドとは1)
フィンゴリモドは二次リンパ組織から末梢血管中へのリンパ球の移出を制御しているスフィンゴシン-1リン酸(S1P)受容体の調節薬である。生体内でスフィンゴシンキナーゼ2によりリン酸化され、S1P1受容体の内在化と分解を誘導する機能的アンタゴニストとして作用し、結果としてリンパ球の移出が抑制され末梢血管中のリンパ球が減少する。
末梢血管中のリンパ球が減少することで中枢神経系へのリンパ球の浸潤が抑制され、脳や脊髄での脱髄を減少させることにより、多発性硬化症の患者に対して再発抑制効果・治療効果があると考えられている。
- フィンゴリモドを投与した際の感染症発生率
フィンゴリモドによりリンパ球の減少が起こるので、投与後の患者では免疫抑制が起こり感染のリスクが高くなるとされている。そこでFREEDOMS試験におけるプラセボ群、フィンゴリモド0.5mg投与群、1.25mg投与群での感染症の発生率を検証した2)。上気道感染の発生率においてはそれぞれプラセボ投与群/0.5mg投与群/1.25mg投与群はそれぞれ17.5%/17.2%/14.5%、また尿路感染においてもそれぞれ11.2%/8.0%/4.9%とフィンゴリモド投与群での発生率の減少が見られた。しかし下気道感染おいては6.0%/ 9.6%/ 11.4%となり、フィンゴリモド投与群での増加が認められた。
次にフィンゴリモドを投与された患者でのリンパ球数で分類した>0.4×109/L群、0.2-0.4×109/L群、<0.2×109/L群、プラセボ群での感染症の発生数に関する研究を検証した3)。感染部位については先ほどの研究と差はさほど見られず、プラセボ群に対して尿路感染率は減少、上気道や消化管感染では有意差は無く、下気道感染率は増加した。感染症の種類に関してはインフルエンザウイルスやヘルペスウイルス、壊死性腸炎などが挙げられたが、それぞれプラセボ群とリンパ球減少群での発生率の有意差は見られなかった。
またFDA(アメリカ食品医薬品局)の報告ではフィンゴリモドにより進行性多巣性白質脳症のリスクが高まることが警告されている4)。
- まとめ
感染症発生率の増加は多くの部位では認められず、尿路感染などに至っては減少が見られた。しかし下気道感染に関しては増加が認められたので、フィンゴリモド投与の際には下気道症状の注意深い観察が早期の感染症発見に繋がるかもしれない。
[参考文献]
1)Volker Brinkman. FTY720(fingolimod) in Multiple Sclerosis: Therapeutic effects in the immune and the central nervous system, British Journal of Pharmacology(2009), 158,1173-1182
2)Ludwig Kappos, Jeffrey Cohen, William Collins, Ana de Vera and et al. Fimgolimod in relapsing multiple sclerosis:An integrated analysis of safety findings,Multiple Sclerosis and Related Disorders(2014) 3,494-504
3)G Francis, L Kappos, P O’Connor, W Collins and et al. Lymphocytes and fingolimod-temporal pattern and relationship with infections,26th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis, Gothenburg, Sweden, 13–16 October 2010
4)U.S. Food and Drug Administration http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm366529.htm (accessed Jul 17 ,2014 )
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