シリーズ 外科医のための感染症 37. 眼科篇 予防的抗菌薬は役に立つか
眼科領域の手術はとても小さい手術です。侵襲が小さい分、感染症のリスクも低いです。低い分、予防法の効果を吟味するのが難しいです。というわけで、このトピックは質の高いエビデンスに乏しく、あまり煮え切らない感じなんです。
硝子体内注射
硝子体に注射したあと、汚染から眼内炎を発症するリスクがあります。注射時のイソジン消毒についても、局所的抗菌薬についてもエビデンスは非常に乏しいのが現実です。
局所のイソジンはそれでも合理的だ、というので推奨度は高いです。一方、局所の抗菌薬はそこの細菌を殺しますが、術後の眼内炎を減らすというエビデンスは希薄です。しかも、マクロライドやキノロンといった、点眼薬の耐性菌を増やすことがランダム化試験で示され、その耐性はその後も持続しました(Kim SJ, Toma HS. Antimicrobial resistance and ophthalmic antibiotics: 1-year results of a longitudinal controlled study of patients undergoing intravitreal injections. Arch Ophthalmol 2011;129:1180-1188. )。ですので、硝子体内注射のとき、眼内炎予防目的で点眼抗菌薬を用いるのは、妥当とは言えないかもしれません。
白内障手術
術後に局所(前房内)セフロキシム投与により、術後感染症を減らすというエビデンスが複数あります。術後眼内炎が0.34%から0.07%に減ったというのです(Romero-Aroca et al. Results at seven years after the use of Intracamerular cefazolin as an endophthalmitis prophylaxis in cataract surgery. BMC Ophthalmol 2012;12:2. )。しかし、コントロール群の眼内炎が多すぎやん、という批判もあって、この問題は大いにもめました。しかも、局所の抗菌薬が浮腫やtoxic anterior segment syndrome (TASS)という炎症性合併症を起こすこともあり、さらに話はややこしくなりました。どうも、局所抗菌薬のリスクと利益のバランスはとれているとは言いがたいようです。
まとめ
・眼科領域の局所抗菌薬の妥当性は微妙。
文献
Schimei AM et al. Infection: The evolving role of antibiotics. Review of Ophthalmology. 8/9/2012. http://www.revophth.com/content/d/retina/c/35916/
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