シリーズ 外科医のための感染症 36. 眼科篇 結膜炎、角膜炎診療の原則
眼科領域もまた、感染症屋が苦手な分野です。とくにアメリカの感染症屋は苦手にしていると思います。
意外というかやはりというか、外来でよくみる、しかしコンサルトされにくい感染症をアメリカの感染症屋は得意としません。岩田は北京で家庭医として診療している時に、このようなコモンな感染症についてたくさん学ぶことができました。その後も感染症のみならず、総合診療外来を続けています。おかげでアメリカ「だけ」でトレーニングを受けるピットフォールを回避できています。アメリカの感染症屋は内科の研修こそ受けるものの、その後は一般内科から(ほぼ)完全に離れてしまいます。風邪とかは、案外苦手にしています。
それはともかく、結膜炎です。結膜炎は、アレルギー性、ウイルス性、細菌性に大別できます。あとは「その他」、、、異物とかドライアイの影響による結膜炎となります。
アレルギー性結膜炎と感染性結膜炎は、季節性だとか、両側に「同時に」発症するだとか、比較的水様の浸出液などから、わりと簡単に区別できます。感染性結膜炎の中で、ウイルス性と細菌性は、どちらも膿性の浸出液が出たりして、鑑別はそれほど容易ではありません。愛媛大学の眼科医、鈴木崇先生は浸出液のグラム染色の有用性を指摘しています。外来では便利なツールかも知れません。あとは、アデノウイルスの迅速診断キットによる細菌感染の「除外」でしょうか。
抗菌薬治療ですが、通常は点眼薬で行われます。日本ではキノロン系の点眼薬がとても人気がありますが、耐性菌の誘導も懸念されます。おそらくはエコリシン(エリスロマイシン・コリスチン)点眼薬で大抵の細菌性結膜炎も治ってしまうでしょう。UpToDateではキノロンは耐性菌出現の懸念などから、通常の細菌性結膜炎では「ファーストチョイスとはならない」と述べています。
日本の場合、医師と製薬メーカーの利益相反が強すぎて、ここまではっきり言える眼科医は少ないのではないでしょうか。「抗菌薬サークル図データブック点眼剤編」は抗菌点眼薬についてもっとも包括的にまとめてある素晴らしい教科書だと思いますが、そこでも結膜炎のファーストチョイスはキノロンです。PK/PDなどにも配慮していて、とても情報源としては役に立つこの本ですし、グラム染色にも言及してあってそこにも好感が持てますが、抗菌薬の選択に関しては(他のサブスペシャルティー同様)、「もうひとつ」な感があります。
余談ですが、UpToDateでワシントン大学のMcCullochは糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬については「メトホルミンが禁忌や飲めない患者に考えてもよいかも(can be considered)と、SGLT2阻害薬も「長期のアウトカムも安全性もはっきりせず、ルーチンでは推奨しない(do not recommend)」と明記しました(McCulloch DK. Initial management of blood glucose in adults with type 2 diabetes mellitus, and Management of persistent hyperglycemia in type 2 diabetes mellitus.)。ここまではっきりと言及している日本の糖尿病専門医を岩田はまだ見たことがなく、せいぜい「副作用に気をつけて」とか「適正使用を」くらいの言及しかありません(日本糖尿病学会お知らせ http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_7265636F6D6D656E646174696F6E5F53474C54322E706466)。
眼科領域はどうでしょうか。「そんなことないわい、俺はキノロン点眼薬なんて使わないし、推奨もしない」という先生はいるでしょうか(おいででしたら、それはとても嬉しいことですが)。
ウイルス性結膜炎については抗ヒスタミン薬などの対症療法のみで、抗菌薬は必要ないはずです。しかし、アメリカでも抗菌点眼薬はよく出されていると聞きますし、日本でも多くのケースで出されているのではないでしょうか。学会などが中心になって、抗菌点眼薬の適正使用についてはきちんとコンセンサスをとったほうがよいと思います。
細菌感染を合併した角膜炎では、失明のリスクが高いため、エンピリックに広域抗菌薬を用います。この場合は緑膿菌のカバーも大事です。アメリカ眼科学会(AAO)でもキノロン点眼薬が推奨されているようです。
しかし、ここでもウイルス性や真菌性、アカントアメーバのような自由寄生性原虫感染、あるいは自己免疫疾患としての角膜炎については抗菌薬の推奨がありません。
まとめ
・抗菌点眼薬にも適正使用が必要。メーカーの意向とは関係なく言及できるかどうかが、鍵。
文献
泰野寛(監修) 抗菌薬サークル図データブック 点眼剤編 じほう
Jacobs DS. Conjunctivitis. UpToDate. Last updated May 14, 2014.
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