注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
骨髄移植患者におけるガンシクロビルによるprophylactic therapyの効果
造血幹細胞移植後すぐの患者では、免疫機構が回復しきっていないため、免疫不全状態になっている。よって様々な感染症のリスクが高い。もし患者がGVHDを起こした場合には、さらなる免疫抑制を行う必要があるため、より一層の注意が必要である。骨髄移植に伴う感染症を引き起こす微生物は、その時期に相関しており、それぞれPhaseⅠ(定着前/三週間以内)、PhaseII(定着後急性期/三か月以内)、PhaseIII(定着後慢性期/三か月以降)となっている。
PhaseIIからPhaseIIIにかけて頻度の高い感染症にCMV感染症がある。CMV感染症には肺炎や胃腸炎を起こす重篤なものが多いため、状況によってガンシクロビルによる予防措置が行われる。予防措置には、CMV pp65抗原の検出を基準とするpreemptive therapyと、CMV IgG抗体の検出を基準とするprophylactic therapyとがある。CMV pp65抗原陽性は活動的なウイルスの存在を、CMV IgG抗体陽性はCMV既感染をそれぞれ示唆する。ガイドラインによると、推奨はpreemptive therapyとなっている(1) 。実際に、予防措置を全く行わなかった場合の日本人成人の発症率は約30%であったのに対し、ガンシクロビルのpreemptive therapyを行った場合では10%以下であったと日本血液学会学術集会は報告している(2)。ただしガイドラインでは、CMV pp65抗原検査には偽陰性の例があることも同じく強調されている(1)。また、preemptive therapyはprophylactic therapyよりも適応が狭く、CMV感染症を見逃しやすいと言える。以上のような考えから、prophylactic therapyを推奨とすることは出来ないのか、その効果はどれほどのものなのかということを考察した。
prophylactic therapyの効果を検証する試験はいくつか行われており、CMV抗体陽性の造血幹細胞移植後患者についての二重盲検試験で、総数72人を対象としたもの(1991年)、総数64人を対象としたもの(1993年)がある。この比較で問題となるのは、ガンシクロビルの副作用である骨髄抑制とCMV感染症予防の兼ね合いである。1991年の試験では、ガンシクロビル群とプラセボ群には180日以内の死亡率において有意差があり、予防投与のbenefitは示されたが、1993年の試験では、むしろガンシクロビルの副作用で死亡する例の方が多く、benefitは示されなかった。
結論として、prophylactic therapyにはCMV感染症予防という観点では効果があると言えるが、副作用の骨髄抑制により他の感染症が起こりやすくなるなど、問題点も多かった。よって、prophylactic therapyは、患者背景に着目し、骨髄機能の回復速度と免疫抑制の程度、肺炎リスクなどあらゆる事象に留意した場合に限り、死亡率を下げる可能性もあるが、推奨となるほどのbenefitは無いと考えられた。
【文献】(1)Guidelines for Preventing Infectious Complications among Hematopoietic Cell Transplantation Recipients. A Global Perspective. Biol Blood Marrow Transplant 2009. (2)日本血液学会ホームページ (3)Early Treatment with Ganciclovir to prevent cytomegalovirus disease after allogeneic bone marrow transplantation. N Engl J Med 1991. (4)Ganciclovir Prophylaxis To Prevent Cytomegalovirus Disease after Allogeneic Marrow Transplant. American College of Physicians 1993.
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